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岩手県の賃金統計2026|6月の現金給与400,642円と業種差

岩手県の賃金統計2026|6月の現金給与400,642円と業種差

岩手県内の常用労働者5人以上の事業所で働く人の2026年6月の現金給与総額は、1人平均400,642円でした。前年同月と比べて6.1%の減少です。ただし常用労働者30人以上の事業所に限ると466,869円で、こちらは1.9%の増加。同じ月の全国(5人以上)は534,823円で4.0%の増加でした。

6月は夏の賞与が入る月なので、現金給与総額の増減は賞与の増減に引っ張られます。毎月の基本給にあたる所定内給与で見ると、岩手県の5人以上は236,885円で0.8%の減少、30人以上は252,517円で2.1%の増加です。同じ県内でも、事業所の規模と業種で賃金の動きがはっきり分かれています。

この記事では、岩手県ふるさと振興部が2026年8月27日に公表した「毎月勤労統計調査地方調査結果(令和8年6月分)」に沿って、県内の賃金・労働時間・雇用の数字を読み、自社の賃金表や求人条件と突き合わせる手順、そして生成AIに任せてよい作業と人が確認する作業を整理します。最低賃金が2026年12月1日に1,090円へ上がる予定の岩手県で、賃上げの議論を実感ではなく公表値から始めるための記事です。

この記事の要点

  • 岩手県の2026年6月分(常用労働者5人以上)は、現金給与総額400,642円(前年同月比6.1%減)、きまって支給する給与254,169円(0.2%減)、所定内給与236,885円(0.8%減)。特別に支払われた給与は146,473円で、前年同月より25,103円少ない。
  • 30人以上の事業所は、現金給与総額466,869円(1.9%増)、所定内給与252,517円(2.1%増)。規模の大きい事業所ほど賃金が伸びている。
  • 業種別(5人以上)の現金給与総額は、医療・福祉が13.0%増、宿泊業・飲食サービス業が13.4%増、運輸業・郵便業が19.1%増。一方で建設業は9.8%減、製造業は9.1%減、卸売業・小売業は8.9%減。
  • 労働時間は、総実労働時間147.6時間(前年同月と同じ)、所定外労働時間9.1時間(4.6%増)。建設業14.0時間、運輸業・郵便業18.5時間と、現場系の残業が伸びている。
  • 雇用は、常用労働者422,456人(0.8%増)、パートタイム労働者比率29.3%(前年同月差4.0ポイント増)。
  • 全国(5人以上)は現金給与総額534,823円(4.0%増)、実質賃金2.2%増。岩手県の実質賃金指数(現金給与総額)は8.9%減で、伸び率の差が大きい。
  • 生成AIには「読み取った数字を説明文と資料にする」作業を任せ、数字の読み取りと比べてよいかの判断は人がやる。

対象読者

  • 岩手県内で製造・建設・運輸・小売・飲食・宿泊・医療福祉などを営み、賃上げや賞与の判断を控えている経営者・総務の方
  • 求人票の給与欄を決めるときに、県内の水準と伸び率を出典付きで押さえたい採用担当の方
  • 補助金や融資の申請書、価格交渉の資料で「県内の人件費の動き」を書く必要がある方
  • 労務や経理を少人数で回していて、県の統計を毎月見る時間がない方

読了後にできること

  • 現金給与総額・きまって支給する給与・所定内給与の違いを説明でき、自社の給与明細を同じ定義に組み替えられる
  • 自社の業種・規模に当たる県の数字を探し、前年同月比で自社と比べられる
  • 残業時間とパート比率の動きを、採用計画と価格交渉の資料に落とせる
  • 県の月報の公表周期を業務カレンダーに入れ、毎月同じ手順で更新できる
  • 生成AIに渡す数字と、人が確認する項目を線引きできる

毎月勤労統計調査地方調査は「岩手県の給与の月報」

現金給与総額を最上段に置き、その下にきまって支給する給与と特別に支払われた給与、さらにきまって支給する給与の下に所定内給与と所定外給与を置いた3層の階層図。特別に支払われた給与の下には賞与と書かれている。
図1 現金給与総額・きまって支給する給与・所定内給与の階層

毎月勤労統計調査地方調査とは、統計法に基づく基幹統計として岩手県が毎月まとめている、県内の賃金・労働時間・雇用の調査です。県内の常用労働者5人以上の事業所のうち、厚生労働大臣が指定した約600事業所を対象に調べ、その結果を県内の5人以上のすべての事業所に対応するように復元して算出しています。2026年6月分は、岩手県ふるさと振興部から2026年8月27日に公表されました(岩手県ふるさと振興部「毎月勤労統計調査地方調査結果 令和8年6月分」(令和8年8月27日公表))。

労使の賃金改定の基礎資料、雇用保険の基本手当や労災の休業補償の額の改定、県民経済計算の推計に使われている統計です。つまり、県内で「賃金の相場がどう動いているか」を公的に示す資料はこれになります。

3つの給与の定義を先に押さえる

月報には「現金給与総額」「きまって支給する給与」「所定内給与」という3つの給与が出てきます。図1の階層で押さえてください。

  • 現金給与総額は、所得税や社会保険料を差し引く前の支給総額で、「きまって支給する給与」と「特別に支払われた給与」の合計です。
  • きまって支給する給与は、給与規則などであらかじめ決まっている給与で、「所定内給与」と「所定外給与」の合計です。所定外給与は残業代・休日出勤手当・深夜手当などです。
  • 特別に支払われた給与は、賞与や、定昇・ベースアップの差額追給分など、3か月を超える期間ごとに算定される給与です。

自社の給与明細でいえば、基本給と各種手当が所定内給与、残業代が所定外給与、賞与が特別に支払われた給与にあたります。この定義に自社の数字を組み替えないと、県の数字と比べられません。

前年同月比は指数から計算されている

月報の前年同月比は、金額の実数ではなく指数から計算されています。そのため、金額を自分で割り算して出した増減率とは一致しないことがあります。また、30人以上の事業所は毎年1月に調査対象の一部を入れ替える方式で、2024年1月には労働者数の推計の基礎データも更新されています。前年同月比を資料に書くときは、月報に載っている値をそのまま写し、自分で計算し直さないのが安全です。

もう一つ、5人以上の数字には30人以上の事業所も含まれています。「5人以上」と「30人以上」は別の集団ではなく、後者は前者の一部です。

2026年6月の岩手県は現金給与総額400,642円、前年同月比6.1%減

行見出しに現金給与総額と所定内給与、列見出しに5人以上と30人以上を置いた2行2列の表。5人以上の列は6.1%減と0.8%減、30人以上の列は1.9%増と2.1%増と書かれている。
図2 5人以上と30人以上で前年同月比の向きが逆

まず調査産業計の数字を、事業所規模で並べます。出典はいずれも県の月報(令和8年6月分)です。

項目 5人以上 前年同月比 30人以上 前年同月比
現金給与総額 400,642円 6.1%減 466,869円 1.9%増
きまって支給する給与 254,169円 0.2%減 275,158円 3.0%増
所定内給与 236,885円 0.8%減 252,517円 2.1%増
特別に支払われた給与 146,473円 前年同月差25,103円減 191,711円 前年同月差950円増

減ったのは賞与、基本給はほぼ横ばい

5人以上の現金給与総額が6.1%減った主因は、特別に支払われた給与が前年同月より25,103円少なかったことです。6月は夏の賞与の支給月なので、ここが減ると総額が大きく動きます。一方で、きまって支給する給与は0.2%減、所定内給与は0.8%減と、毎月の給与は前年とほぼ同じ水準でした。

「県内の給与が6%も下がった」と読むのは誤りです。正しくは「毎月の給与はほぼ横ばいで、夏の賞与が前年より少なかった」です。社内資料にこの数字を使うときは、必ず現金給与総額と所定内給与の両方を並べてください。

30人以上では基本給も賞与も増えた

30人以上の事業所は、現金給与総額が1.9%増、きまって支給する給与が3.0%増、所定内給与が2.1%増です。特別に支払われた給与も前年同月差950円の増加で、賞与を減らさずに毎月の給与も上げた事業所が多かったことがうかがえます。

29人以下で差が開いていると読める

5人以上全体では所定内給与が0.8%減っているのに、その一部である30人以上では2.1%増えています。単純に考えると、残りの5〜29人の事業所では所定内給与が前年より下がっている計算になります。月報は5〜29人の数字を単独では載せていないので断定はできませんが、県内の小規模事業所で賃上げが進んでいない可能性を示す数字として、この差は押さえておく価値があります。

業種別に見ると、伸びた業種と減った業種がはっきり分かれる

左の列に所定内給与が増えた業種として建設業、宿泊業、飲食サービス業、医療、福祉、右の列に所定内給与が減った業種として製造業、運輸業、郵便業、卸売業、小売業を並べた2列の図。
図3 所定内給与の前年同月比で6業種を2列に分ける

県内の主要な6業種について、5人以上の現金給与総額と所定内給与を並べます。出典は県の月報の表1です。

業種 現金給与総額 前年同月比 所定内給与 前年同月比
建設業 367,372円 9.8%減 302,055円 4.0%増
製造業 406,437円 9.1%減 251,175円 0.1%減
運輸業、郵便業 394,559円 19.1%増 217,435円 7.5%減
卸売業、小売業 215,861円 8.9%減 184,939円 5.6%減
宿泊業、飲食サービス業 192,709円 13.4%増 132,741円 5.6%増
医療、福祉 463,775円 13.0%増 254,326円 6.3%増

図3では、所定内給与が増えた業種と減った業種を2列に分けています。所定内給与が増えたのは建設業、宿泊業、飲食サービス業、医療、福祉。所定内給与が減ったのは製造業、運輸業、郵便業、卸売業、小売業です。

医療・福祉と宿泊・飲食は所定内給与が伸びた

医療、福祉は現金給与総額が13.0%増、所定内給与も6.3%増で、賞与と毎月の給与の両方が伸びました。宿泊業、飲食サービス業も現金給与総額が13.4%増、所定内給与が5.6%増です。宿泊・飲食は金額の水準そのものは192,709円と6業種で最も低いのですが、伸び率では上位に入ります。人手の確保のために時給や基本給を上げた動きが、そのまま数字に出ていると読めます。

建設業と製造業は賞与が減った

建設業は現金給与総額が9.8%減ですが、所定内給与は4.0%増です。特別に支払われた給与が前年同月より51,784円少なかったことが総額を押し下げました。製造業も現金給与総額は9.1%減で、特別に支払われた給与が44,199円減っています。所定内給与は0.1%減とほぼ横ばいでした。つまり、この2業種は「毎月の給与は維持したが、夏の賞与を絞った」形です。

運輸は賞与で増え、卸売・小売は所定内給与も減った

運輸業、郵便業は現金給与総額が19.1%増と6業種で最も大きく伸びましたが、所定内給与は7.5%減です。特別に支払われた給与が77,131円増えたことが総額を押し上げており、毎月の給与が上がったわけではありません。卸売業、小売業は現金給与総額が8.9%減、所定内給与も5.6%減と、両方が下がりました。後で見るパートタイム労働者比率の上昇と合わせて読む必要がある業種です。

労働時間は横ばい、残業は現場系で増えている

卸売業、小売業の5.2時間から、製造業13.6時間、建設業14.0時間、運輸業、郵便業18.5時間へと、所定外労働時間を少ない順に4段の階段で示した図。
図4 業種別の所定外労働時間(2026年6月・5人以上)

5人以上の1人平均総実労働時間は147.6時間で、前年同月と同じでした。内訳は所定内労働時間138.5時間(0.3%減)、所定外労働時間9.1時間(4.6%増)です。出勤日数は19.5日で、前年同月より0.2日多くなっています。30人以上は総実労働時間150.1時間(0.4%減)、所定外労働時間10.1時間(0.9%減)でした。出典は県の月報の表2です。

業種(5人以上) 総実労働時間 所定外労働時間 所定外労働時間の前年同月比
建設業 174.2時間 14.0時間 16.6%増
製造業 161.2時間 13.6時間 7.9%増
運輸業、郵便業 163.0時間 18.5時間 22.5%増
卸売業、小売業 132.9時間 5.2時間 23.4%減
宿泊業、飲食サービス業 106.3時間 5.9時間 13.5%増
医療、福祉 145.9時間 5.6時間 14.2%増

建設・運輸・製造は残業が2桁時間

図4は所定外労働時間を少ない順に並べたものです。卸売業、小売業は5.2時間、製造業は13.6時間、建設業は14.0時間、運輸業、郵便業は18.5時間です。運輸業、郵便業は前年同月比22.5%増、建設業は16.6%増と、現場系の業種で残業が伸びています。総実労働時間も建設業174.2時間、運輸業、郵便業163.0時間と長く、県内で人手不足が最も数字に出ている業種と言えます。

小売は残業が減り、労働時間も短くなった

卸売業、小売業は所定外労働時間が23.4%減の5.2時間、総実労働時間も132.9時間で2.3%減です。所定内給与が5.6%減っていたことと合わせると、働く時間が短い人の割合が増えて、1人あたりの平均が下がった構図が見えてきます。

残業代は「きまって支給する給与」に入る

所定外労働時間が増えると、残業代である所定外給与が増え、きまって支給する給与が所定内給与より大きく動きます。建設業できまって支給する給与が3.7%増、所定内給与が4.0%増と近い値なのに対し、運輸業、郵便業ではきまって支給する給与が5.4%減、所定内給与が7.5%減と差が出ているのは、残業代の分です。自社で「基本給を上げたのか、残業で総額が増えたのか」を分けて見るときも、この2つを並べます。

働く人は増えているが、パートの比率が上がっている

中央にパートタイム労働者比率を置き、周囲に宿泊業、飲食サービス業61.5%、卸売業、小売業53.7%、運輸業、郵便業33.9%、製造業18.6%の4業種を放射状に配置したハブ型の図。
図5 業種別のパートタイム労働者比率(2026年6月・5人以上)

5人以上の常用労働者数は422,456人で、前年同月比0.8%増でした。製造業は76,815人(1.9%増)、卸売業、小売業は74,760人(0.2%増)、医療、福祉は81,894人(2.0%増)、建設業は31,809人(3.1%増)、運輸業、郵便業は27,853人(20.7%増)です。宿泊業、飲食サービス業は28,175人で4.5%減でした。労働異動率は入職率1.58%、離職率1.34%です。出典は県の月報の表3です。

一方で30人以上の常用労働者数は228,358人で1.0%減、製造業は60,016人で2.7%減です。5人以上全体で増えて30人以上で減っているので、増えた分は主に29人以下の事業所にあると読めます。

パートタイム労働者比率は29.3%、前年同月差4.0ポイント増

5人以上のパートタイム労働者比率は29.3%で、前年同月より4.0ポイント上がりました。業種別に見ると、宿泊業、飲食サービス業が61.5%、卸売業、小売業が53.7%、運輸業、郵便業が33.9%(前年同月差16.7ポイント増)、製造業が18.6%(同9.2ポイント増)です。医療、福祉は25.2%、建設業は1.8%でした。

運輸業、郵便業で常用労働者が20.7%増え、パートタイム労働者比率が16.7ポイント上がっているのは、増えた人の多くがパートタイムだったことを示しています。製造業でも比率が9.2ポイント上がっており、フルタイムの採用が難しい中でパートタイムで補う動きが、県内の複数の業種で同時に起きています。

数字が示す採用の現実

パートタイムの比率が上がると、1人あたりの平均賃金と平均労働時間は下がります。卸売業、小売業の所定内給与5.6%減、総実労働時間2.3%減は、この動きと整合します。「賃金が下がった」のではなく「短時間で働く人が増えた」と読むべき業種です。

採用の側から見ると、パートタイムで人を確保できている業種と、そもそも人が減っている宿泊業、飲食サービス業とで、打つ手が違います。パートタイムの人が増えている事業所では、社会保険の適用範囲の変更も関わってきます。岩手の社会保険適用拡大の記事で、2026年10月以降の扱いを確認しておいてください。若い人の採用については岩手の高卒採用の記事が、県内の求人票の書き方をまとめています。

全国と並べると、伸び率の差が見える

行見出しに岩手県と全国、列見出しに現金給与総額と実質賃金を置いた2行2列の表。岩手県の行は6.1%減と8.9%減、全国の行は4.0%増と2.2%増と書かれている。
図6 岩手県と全国の前年同月比(2026年6月・5人以上)

全国の2026年6月分は、厚生労働省が2026年8月24日に確報を公表しています(厚生労働省「毎月勤労統計調査 2026(令和8)年6月分結果確報」(2026年8月24日))。岩手県の月報と同じ項目で並べます。

項目(5人以上) 岩手県 全国
現金給与総額 400,642円(6.1%減) 534,823円(4.0%増)
きまって支給する給与 254,169円(0.2%減) 299,671円(3.4%増)
所定内給与 236,885円(0.8%減) 279,511円(3.5%増)
特別に支払われた給与 146,473円(前年同月差25,103円減) 235,152円(4.7%増)
実質賃金(現金給与総額)の前年同月比 8.9%減 2.2%増
現金給与総額(30人以上) 466,869円(1.9%増) 651,179円(4.1%増)

水準の差には産業構成の差も含まれる

岩手県の400,642円と全国の534,823円を並べて「岩手は13万円安い」と書くのは、資料としては雑です。金額の水準には、県内の産業構成(医療・福祉、製造業、卸売・小売の比重)や、パートタイム労働者比率の違いがそのまま入ります。比べてよいのは前年同月比の伸び率です。全国が現金給与総額で4.0%増、所定内給与で3.5%増なのに対し、岩手県はそれぞれ6.1%減、0.8%減。同じ6月で、伸び率の向きが逆になっている点が今回の要点です。

実質賃金は「物価を差し引いた伸び」

実質賃金は、名目の賃金指数を消費者物価指数で割って、物価の上昇分を差し引いた伸びです。全国は、持家の帰属家賃を除く総合の消費者物価が1.9%上昇する中で、実質賃金が2.2%増でした。岩手県の月報にある実質賃金指数(現金給与総額・5人以上)は120.9(2020年平均=100)で、前年同月比8.9%減。30人以上でも1.2%減です。賞与の減少が効いている月ではありますが、県内で働く人の購買力が前年の6月を下回った、という読み方になります。物価の側の数字は、盛岡市の家計調査の記事で7月の消費支出とあわせて確認できます。

最低賃金は12月1日に1,090円へ上がる予定

岩手県の最低賃金は、令和8年度の答申で1,031円から1,090円へ59円引き上げられ、発効予定日は2026年12月1日です。全国加重平均は1,177円です(厚生労働省「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」(別紙・2026年9月16日確認))。答申段階の資料なので、確定は官報での公示を待ちます。

所定内給与が横ばいの事業所にとって、12月の59円の引き上げは時給換算した基本給の下限を直接動かします。県の月報の数字は「県内の平均が動いていない中で、下限だけが確実に上がる」ことを示しており、賃上げの原資をどこから出すかの議論を、この秋のうちに始める理由になります。中小企業が最低賃金の引き上げに合わせて賃上げと設備投資を行う場合、業務改善助成金の対象となる場合があります(要件審査あり・支給を保証するものではありません)。令和8年度は賃上げの期限が発効日の前日か11月30日の早い方とされているので、条件は厚生労働省「業務改善助成金」のページで確認してください。

自社の賃金表と県の数字を突き合わせる手順

業種と規模を決める、同じ定義で自社の平均を出す、前年比で並べる、残業時間も並べる、最低賃金との距離を測る、説明文にする、という6段階を左から右へ矢印でつないだ手順図。
図7 県の月報を自社の賃金表と突き合わせる順番

県の数字を自社に当てはめる手順は6段階です。業種と規模を決める、同じ定義で自社の平均を出す、前年比で並べる、残業時間も並べる、最低賃金との距離を測る、説明文にする、の順です。

  1. 業種と規模を決める。自社が月報のどの産業分類に当たるか、5人以上と30人以上のどちらの行を見るかを最初に固定します。製造と小売を兼ねる事業者は、売上の大きいほうに寄せて1つに決めます。
  2. 同じ定義で自社の平均を出す。2026年6月の給与台帳から、常用労働者1人あたりの所定内給与、所定外給与、賞与を出し、現金給与総額・きまって支給する給与・所定内給与の3つに組み替えます。パートタイムの人も含めた平均にします。
  3. 前年比で並べる。自社の2025年6月と2026年6月の3つの給与を並べ、増減率を出します。県の数字とは、金額の水準ではなく、この増減率で比べます。
  4. 残業時間も並べる。自社の所定外労働時間の1人平均と前年比を出し、県の業種の値と並べます。給与が増えていても残業で増えているなら、基本給は上がっていません。
  5. 最低賃金との距離を測る。所定内給与を所定内労働時間で割って時給換算し、1,090円との差を出します。差が小さい人が何人いるかで、12月に必要な原資が見えます。
  6. 説明文にする。ここから先は生成AIに任せられる作業です。次の節で扱います。

求人票の給与欄に使うとき

求人票の月給を決めるとき、県の所定内給与の業種別の値は「応募者が比べる相場」として機能します。宿泊業、飲食サービス業の所定内給与が5.6%増、医療、福祉が6.3%増と伸びている中で前年と同じ条件を出すと、相対的に見劣りします。金額そのものを県平均に合わせる必要はありませんが、伸び率が周囲より低い場合は、その理由を採用面接で説明できるようにしておきます。

価格交渉の資料に使うとき

人件費の上昇を取引先に説明するとき、自社の数字だけでは「御社の都合」で終わります。県の月報の業種別の所定内給与の伸び率と、12月の最低賃金の引き上げ幅を並べると、県内で共通に起きている動きとして説明できます。交渉の段取りは価格交渉促進月間の記事にまとめています。

賞与と年末の資金繰りに使うとき

6月の数字で県内の夏の賞与が前年より減っていたことは、冬の賞与の判断材料にもなります。自社の賞与を決める前に、年末までの支払いカレンダーの記事で賞与・仕入・納税の並びを確認し、年末調整2026の記事で基礎控除の変更を押さえておくと、12月に慌てません。

生成AIに任せてよい作業と、人が確認する作業

数字は人が読み、AIは文章にする

生成AIに向いているのは、こちらが読み取った数字を、社内向けの説明文、求人票の文案、取引先へのお願い文、会議資料の要点へ組み立て直す作業です。同じ内容を「経営会議向け」「現場向け」「取引先向け」に書き分けるのも得意です。

向いていないのは、数字そのものを出させることです。県の月報の値を記憶から答えさせると、それらしい数字が返ってきますが、公表値と一致する保証はありません。PDFを読ませた場合も、5人以上と30人以上の取り違え、現金給与総額と所定内給与の混同、前年同月比と前年同月差の混同が起きます。数字は人が月報から書き写し、AIには「この数字だけを使って書いて」と渡します。生成AIを使う前の社内ルールはAI利用ルールの記事で決められます。

プロンプトの例

あなたは岩手県内の中小企業の総務担当です。以下の数字だけを使い、
社内の経営会議向けに「県内の賃金の動きと当社の位置」を説明する文章の下書きを作ってください。
数字を足したり、書かれていない項目を推測して補ったりしないでください。

【使ってよい数字】
・岩手県 毎月勤労統計調査地方調査 令和8年6月分(岩手県ふるさと振興部・2026年8月27日公表)
 5人以上 現金給与総額 400,642円(前年同月比6.1%減)
 5人以上 所定内給与 236,885円(前年同月比0.8%減)
 5人以上 所定外労働時間 9.1時間(前年同月比4.6%増)
 当社の業種の所定内給与: ここに月報の業種の行を書き写す
・当社の2026年6月の1人平均: 所定内給与、所定外給与、賞与をここに書く
・岩手県の最低賃金: 1,090円(2026年12月1日発効予定)

【条件】
・A4で1枚に収まる長さ
・金額の水準の比較ではなく、前年同月比の比較を軸にする
・「賃金が下がった」ではなく「賞与が減り、毎月の給与は横ばい」と正確に書く
・断定できないことは書かない

出す前に確認する3点

AIが書いた文章は、社内に回す前に3点だけ確認します。1つめ、数字が渡した通りか。2つめ、5人以上と30人以上、現金給与総額と所定内給与を取り違えていないか。3つめ、出典の資料名・対象月・公表日が書かれているか。この3点は毎回同じなので、確認項目としてメモに固定しておくと早く回ります。県内の中小企業で生成AIの活用がどこまで進んでいるかは、生成AI活用率の記事にまとめています。

毎月の更新を業務カレンダーに入れる

毎月勤労統計調査地方調査は、対象月からおよそ2か月後に公表されます。6月分は8月27日の公表でした。7月分以降の公表日は、県の「統計調査結果(最新)」のページで確認できます(岩手県「いわての統計情報 統計調査結果(最新)」)。全国の数字は厚生労働省「毎月勤労統計調査(全国調査・地方調査)結果の概要」に、速報と確報の両方が並びます。

資料 発行元 周期 2026年9月16日時点の掲載分
毎月勤労統計調査地方調査(岩手県) 岩手県ふるさと振興部 月報 令和8年6月分(8月27日公表)
毎月勤労統計調査(全国) 厚生労働省 月報 令和8年6月分確報(8月24日公表)、7月分速報
盛岡市家計調査 岩手県ふるさと振興部 月報 令和8年7月分
地域別最低賃金 答申状況 厚生労働省 年1回 令和8年度(岩手県1,090円・12月1日発効予定)

月に一度、県の月報の「調査結果の概要」の1〜5ページだけを開き、調査産業計と自社の業種の行を書き写す。この15分を業務カレンダーに置くだけで、賃上げや求人条件の話が出たときに、探すところから始めなくて済みます。業種ごとのAI活用は岩手×AI業種別インデックスから探せます。

まとめ

岩手県の2026年6月の現金給与総額は400,642円で前年同月比6.1%減でしたが、減ったのは主に夏の賞与で、所定内給与は0.8%減とほぼ横ばいでした。30人以上の事業所では所定内給与が2.1%増えており、規模による差が開いています。業種別では医療・福祉、宿泊・飲食、運輸で総額が増え、建設・製造・卸売小売で減りました。残業は建設・運輸・製造で増え、パートタイム労働者比率は29.3%まで上がっています。全国が現金給与総額4.0%増、実質賃金2.2%増だったのに対し、岩手県は伸び率の向きが逆でした。

12月1日には最低賃金が1,090円へ上がる予定です。県の月報の数字を自社の給与台帳と同じ定義で並べ、前年同月比と最低賃金との距離を出す。その数字を生成AIに渡して説明文にする。この順番で、賃上げの議論を公表値から始めてください。

よくある質問

Q. 岩手県の賃金の統計はどこで見られますか。
A. 岩手県ふるさと振興部が毎月公表している「毎月勤労統計調査地方調査結果」です。県の「いわての統計情報」の統計調査結果(最新)のページから、月ごとのPDFとExcelを開けます。2026年9月16日時点の掲載分は令和8年6月分(8月27日公表)です。

Q. 現金給与総額が6.1%減なのに、30人以上では1.9%増なのはなぜですか。
A. 5人以上の全体では特別に支払われた給与(賞与など)が前年同月より25,103円少なく、これが総額を押し下げました。30人以上の事業所では賞与が前年並みで、所定内給与も2.1%増えています。5人以上には30人以上も含まれるので、差は主に29人以下の事業所で出ていると読めます。

Q. 自社の給与が県の平均より低い場合、すぐに上げるべきですか。
A. 金額の水準だけで判断しないでください。県の数字は業種やパートタイム比率の違いを含む平均です。まず自社の業種の行と、前年同月比の伸び率で比べ、次に所定内給与を時給換算して12月からの最低賃金1,090円との距離を出す。この2つで、上げる必要がある人と原資の規模が見えます。

Q. 全国の534,823円と岩手県の400,642円を比べて「岩手は賃金が低い」と書いてよいですか。
A. 資料としては避けてください。水準の差には産業構成やパートタイム比率の差が入ります。比べてよいのは前年同月比で、全国が4.0%増、岩手県が6.1%減という伸び率の差を書くのが正確です。

Q. 岩手県の最低賃金1,090円はいつから適用されますか。
A. 令和8年度の答申では、1,031円から59円引き上げて1,090円、発効予定日は2026年12月1日です。答申段階の資料なので、確定は官報での公示を確認してください。

Q. 県の月報のPDFを生成AIに読ませて要約させてもよいですか。
A. 下書きの補助としては使えますが、要約に出てきた数字をそのまま資料に載せないでください。5人以上と30人以上、現金給与総額と所定内給与の取り違えが起きます。数字は人が月報から書き写し、AIには文章の組み立てだけを任せる形が安全です。

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参考・出典