IWATE AI JOURNAL

記事を読む 岩手のAI活用・補助金・研修設計を実務で使う
業務改善

価格交渉促進月間2026|岩手の転嫁率50.2%と交渉準備

価格交渉促進月間2026|岩手の転嫁率50.2%と交渉準備

2026年9月は、国が年に2回だけ設けている「価格交渉促進月間」です。9月下旬以降には、受注側の中小企業30万社にフォローアップ調査(アンケート)が届きます。そして岩手県内の中小企業の価格転嫁率は50.2%・全国40位(2026年3月調査・受注企業の所在地別)。全国平均54.2%を4ポイント下回り、東北6県では最も低い水準です。

やることは3つだけです。発注先へ価格交渉を申し出る。交渉の記録を残す。9月下旬に届く調査に事実を書いて返す。 どれも新しい設備も資格も要らない、文章と資料の仕事です。だからこそ生成AIで時間を縮められます。岩手県は9月15日(火)にオンラインの無料セミナーも開きます。

2026年9月の価格交渉促進月間で岩手の受注側企業が進める申し出・記録・調査回答の時系列図
2026年9月の価格交渉促進月間で岩手の受注側企業が進める申し出・記録・調査回答の時系列図

この記事の要点

  • 「価格交渉促進月間」は毎年9月と3月。2021年9月から続いている。価格改定を4月と10月に行う企業が多いため、その前月に設定されている。
  • 2026年9月分の周知文は令和8年8月27日付・経済産業大臣名で出ている。今回の月間から官公需に特化した調査が新たに加わった。
  • 岩手県の価格転嫁率は50.2%(全国40位)。全体は54.2%、秋田県は60.4%で全国1位。
  • フォローアップ調査は9月下旬以降。通常調査は主要な発注企業最大3社分、官公需の調査は発注機関最大5者分
  • 回答は匿名性を確保して集計され、結果は発注者リストとして4区分で公表される。芳しくない発注者には事業所管大臣名で指導・助言が行われる。
  • 2026年1月1日に下請法は取適法(中小受託取引適正化法)へ。協議に応じない一方的な代金決定と、手形払いが禁止された。
  • 岩手県は9月15日(火)13時30分〜15時00分にオンラインの価格転嫁交渉セミナーを開催。相談先は取引かけこみ寺・価格転嫁サポート窓口・専門家派遣の3つ。
  • AIに任せてよいのは、コスト上昇の説明文・交渉記録の整形・調査回答の下書き。未公表の原価内訳と取引先名は入れない

対象読者

  • 岩手県内で製造・建設・運送・食品加工などの受注(下請)取引をしている中小企業の経営者、営業、購買、経理の担当者
  • 発注側として県内の取引先に発注している企業の調達部門
  • 商工会・商工会議所・組合など、県内事業者を支援する立場の担当者

読了後にできること

  • 2026年9月に自社が何をすべきか(申し出・記録・回答)を、日付つきで説明できる。
  • 岩手の価格転嫁率が全国のどの位置にあるかを、自社の業種の数字と並べて社内で共有できる。
  • 取適法で何が禁止されたのかを踏まえ、「協議に応じてもらえない」ときの相談先を選べる。
  • 価格交渉の資料づくりと調査回答の下ごしらえをAIに任せ、人が判断すべきところを線引きできる。

結論|9月にやることは「申し出・記録・回答」の3つ

2026年9月7日時点で、岩手県内の受注側企業がこの月にやるべきことを整理すると次の3つになります。

やること いつまで 使うもの・相談先
1. 発注先に価格交渉を申し出る 9月中(下期の価格改定は10月が多い) 労務費指針、コスト上昇の根拠資料、価格転嫁サポート窓口
2. 交渉の記録を残す 交渉のつど 指針の行動指針(12)「交渉記録の作成、交渉記録の双方での保管」
3. フォローアップ調査に回答する 9月下旬以降に届いた場合 過去6か月の交渉・転嫁・支払条件の事実
(任意)県の無料セミナーに出る 2026年9月15日(火)13時30分〜15時00分 オンライン(Zoom)・岩手県主催
(任意)専門家派遣を頼む 随時 商工指導団体等から無料で派遣(岩手県の補助事業)

順番も大事です。先に交渉を申し出て、その記録を持った状態で調査に答えると、書く内容が事実で埋まります。調査が届いてから慌てて交渉を始めると、「交渉していない」という回答しか書けません。

出典は中小企業庁「2026年9月『価格交渉促進月間』の実施について(周知依頼)」(令和8年8月27日)岩手県「円滑な価格転嫁に向けた環境整備」(令和8年8月19日更新)です。

最終確認日: 2026年9月7日

価格交渉促進月間とは|なぜ3月と9月なのか

「価格交渉促進月間」は、原材料費・エネルギーコスト・労務費の上昇分を中小企業が適切に価格へ反映できる環境をつくるため、2021年9月から毎年9月と3月に設定されている取り組みです。

なぜこの2か月なのか。経済産業省は理由をはっきり書いています。価格の改定は半期に一度、4月と10月に行う企業が比較的多いため、その前月である3月と9月を月間に設定したというものです(経済産業省「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果を公表します」(2026年6月26日))。

つまり9月は、10月の価格改定に間に合わせるための最後の月という位置づけです。2026年9月分の周知文でも「この9月は、2026年度下期の価格改定時期を迎える企業も多く、価格転嫁のための交渉が本格化する、大事な時期」と書かれています。

月間中に国がやることは、大きく次の3つです。

  • 広報と講習会:適正取引支援サイトで価格交渉の講習会を重点的に開催する
  • 業界団体を通じた要請:関係事業者団体の代表者宛に大臣名で周知依頼を出す(2026年9月分は令和8年8月27日付)
  • フォローアップ調査:月間終了後に受注側中小企業へアンケートと取引Gメンのヒアリングを行い、結果を公表する

2026年9月からは官公需の調査が加わった

今回の月間から変わった点が1つあります。周知文には「今回の月間から、官公需の取引についてより正確に実態を把握するため、官公需に特化した調査も新たに実施します」と明記されています。

対象は、国や地方公共団体などと取引がある受注側中小企業最大15万社で、主な発注機関最大5者との価格交渉・価格転嫁の状況を答える形です。通常の調査(30万社・主要な発注企業最大3社分)とは別枠になります。

これは岩手の事業者に直接効く変更です。2026年3月調査では官公需における価格転嫁率が48.4%で、前回から約4ポイント低下していました。経済産業省は「特に、都道府県や市区町村の価格転嫁率が国等に比べ低い傾向にあり、規模の小さな機関を含め、取組を進めることが必要」と書いています。県や市町村から仕事を受けている県内事業者は、今回から自分たちの実態が直接集計対象になるということです。

岩手の価格転嫁率は50.2%・全国40位|東北6県では最下位

ここからが岩手の話です。2026年3月調査の都道府県別ランキング(受注企業の所在地ごとの集計)で、岩手県は次の位置にいます。

全国順位 価格転嫁率 前回(2025年9月) 件数
全体 54.2% 53.5% 91,233
秋田県 1位 60.4% 54.1% 582
山形県 9位 56.1% 47.3% 272
青森県 20位 53.9% 51.3% 1,434
福島県 21位 53.7% 53.1% 270
宮城県 25位 53.1% 40.4% 2,290
岩手県 40位 50.2% 46.5% 1,375

岩手県も前回の46.5%から3.7ポイント上がってはいます。ただし東北6県の中では最も低く、全国では47都道府県中40位。全体(54.2%)との差は4ポイントです(中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日))。

東北6県の価格転嫁率と全国順位を比べ、岩手県が40位50.2%であることを示した表
東北6県の価格転嫁率と全国順位を比べ、岩手県が40位50.2%であることを示した表

ここでいう価格転嫁率は、調査票の注記で「実際のコスト上昇分のうち、価格転嫁が実現した割合」の回答の平均値と定義されています。100%なら上がった分を全部価格に乗せられた、50%なら半分だけ、という読み方です。

発注企業の所在地で見ると岩手は48.3%・44位

同じ調査には、発注企業の所在地ごとに集計したもう1つのランキングもあります。こちらは「岩手県に本社がある発注企業は、取引先にどれだけ転嫁を認めているか」を示す数字です。

岩手県は44位・48.3%(前回45.5%・件数855)。受注側で見たときの40位よりさらに低い位置にあります。県内で完結する取引の中でも、発注する側として転嫁に応じきれていない実態がうかがえます。

この2つの数字を並べると、社内の議論が変わります。「うちは値上げを認めてもらえない」と言っている会社が、同時に「自社の外注先には据え置きを求めている」ことがあるからです。9月は受注側としての申し出発注側としての協議を、同じ月に点検できる機会でもあります。

業種で差が出る|岩手に多い製造・建設・運送の転嫁率

全国平均だけを見ても自社の位置は分かりません。同じ調査には受注企業の業種別ランキングもあり、岩手県に多い業種は次の位置にあります。

業種 順位 コスト増に対する転嫁率 うち労務費の転嫁率
全体 54.2% 50.0%
機械製造 4位 63.9% 60.0%
金属 10位 55.8% 50.5%
食品製造 11位 54.9% 48.4%
建材・住宅設備 14位 54.4% 48.2%
運輸・郵便(トラック運送除く) 15位 53.9% 50.9%
建設 17位 52.3% 50.7%
印刷 18位 51.7% 43.3%
農業・林業 29位 38.3% 34.1%
トラック運送 31位 36.9% 33.5%

読み方のポイントは2つあります。

1つ目は、労務費の転嫁率が全体で50.0%にとどまり、原材料費(55.7%)より約5ポイント低いこと。人件費の上昇分がいちばん通りにくいという構図は、業種を問わず共通しています。岩手県の最低賃金は、2026年8月31日の岩手地方最低賃金審議会の答申で1,031円から59円引き上げの1,090円とされ、異議申立の手続を経て12月1日発効の見通しです。上がるのが分かっている人件費を、9月の交渉で先に持ち出せるかが分かれ目になります。

2つ目は、トラック運送が31業種中31位(36.9%)であること。2026年1月の取適法改正で、発荷主から運送事業者への委託(特定運送委託)が新たに対象取引に加わりました。県内で自社便・傭車を使っている製造業や卸売業は、自社が発注側になる場面があることを忘れないでください。

機械製造・金属の現場で原価の根拠を組み立てるなら、設備側のデータ整理から入ると早いです。手順は岩手の製造業×AI|品質管理・予知保全の実装ガイド【2026】にまとめてあります。建設業で「書類を作る時間がなくて交渉まで手が回らない」場合は、岩手の建設業×AI実践ガイド2026|書類仕事と人手不足対策の始め方の書類削減から着手すると、交渉の準備時間が捻出できます。

2026年1月に下請法は「取適法」へ|協議に応じない据え置きは禁止

2026年1月1日、下請法(下請代金支払遅延等防止法)は改正され、中小受託取引適正化法(通称:取適法・昭和31年法律第120号)として施行されています。すでに施行済みの法律であり、9月の交渉はこの新しいルールの上で行われます。

周知文が挙げている改正のポイントは5つです。

  • 対象取引において、代金に関する協議に応じないことや、協議において必要な説明・情報の提供をしないことによる一方的な代金決定の禁止
  • 対象取引において、手形払いを禁止。支払期日までに代金相当額を得ることが困難な支払手段も併せて禁止
  • 対象取引に、製造・販売等の目的物の引渡しに必要な運送の委託を追加
  • 従業員数300人(役務提供委託等は100人)の区分を新設し、適用基準を追加
  • 事業所管省庁の主務大臣に指導・助言権限を付与

同じタイミングで受託中小企業振興法も改正され、対象取引への運送委託の追加、資本金基準に加えた従業員数基準の適用、多段階の事業者による共同での振興事業計画の作成、国と地方公共団体の責務規定の追加、主務大臣による「勧奨」権限の付与が行われました。

実務でいちばん効くのは1つ目です。「協議に応じない」こと自体が禁止行為になりました。「忙しいので今回は据え置きで」と言われて話が終わってしまう、というやりとりは、これまで法律のどこにも当てはめにくかったのですが、いまは違います。

労務費指針も2026年1月1日に改正された

内閣官房と公正取引委員会がつくった「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」も、令和8年1月1日付で改正されています。岩手県が改正のポイントとして挙げているのは次の点です。

下請法改正(取適法施行)を踏まえ、「発注者としての行動(2)」等において、受注者から協議の要請があった場合に、これに応じず一方的に取引価格を据え置くことは「協議に応じない一方的な代金決定」に該当する旨を明記。

つまり「返事をしないで据え置く」は、指針の上でも法律の禁止行為に当たるものとして整理されたということです。加えて、各業界の先進的な取組(グッドプラクティス)も追加されています。

指針に沿わない行為で公正な競争を阻害するおそれがある場合には、公正取引委員会が独占禁止法と取適法に基づき対処することも明記されています(公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」公正取引委員会「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ」リーフレット)。

労務費指針の12の行動指針|受注側がやるのは4つ

指針は行動を12個に分けています。岩手県のページに列挙されているとおり、発注者に6つ、受注者に4つ、双方に2つです。

番号 立場 行動指針
(1) 発注者 本社(経営トップ)の関与
(2) 発注者 発注者側からの定期的な協議の実施
(3) 発注者 説明・資料を求める場合は公表資料とすること
(4) 発注者 サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
(5) 発注者 要請があれば協議のテーブルにつくこと
(6) 発注者 必要に応じ考え方を提案すること
(7) 受注者 相談窓口の活用
(8) 受注者 根拠とする資料
(9) 受注者 値上げ要請のタイミング
(10) 受注者 発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示
(11) 双方 定期的なコミュニケーション
(12) 双方 交渉記録の作成、交渉記録の双方での保管

受注側が押さえるのは4つだけです。特に(3)と(8)はセットで読んでください。発注者が資料を求める場合は「公表資料」であるべきとされているので、受注側が用意するのも、原則として公表されている統計・指数で足ります。自社の原価を1円単位まで開示する義務はありません。

そして(10)。発注者から価格を提示されるのを待たずに、自分から希望額を出す。調査の自由記述にも「自社にはコスト上昇についての詳細な根拠資料を求めるにも関わらず、一方的に価格を決められ、その根拠について発注側からの説明はない」という声が載っています。待っていると、相手の言い値が先に出ます。

9月15日に県が無料セミナー|岩手の相談先は3つ

岩手県は月間に合わせて、県内事業者向けのセミナーを開きます。

項目 内容
名称 価格転嫁交渉セミナー(岩手県主催)
日時 令和8年9月15日(火曜)13時30分〜15時00分
開催方法 オンライン(Zoom)
対象 県内の中小事業者及び支援機関などの担当者 等
講師1 岩手県よろず支援拠点 鈴木 淳一 コーディネーター「支援ツールを用いた価格転嫁交渉術〜「稼ぐ力」の強化に向けた始めの一歩〜」
内容1 近年の経営環境(物価高騰の継続、国の動向 等)/交渉に向けた準備(データ活用、資料作成のノウハウ)/支援ツールを使った資料作成体験 など
講師2 公正取引委員会事務総局東北事務所
内容2 中小受託取引適正化法(旧下請法)の概要/「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」のポイント など
申込 県ページ掲載の周知チラシを確認

内容の並びが実務的です。前半で資料の作り方を手を動かして体験し、後半で法律の線引きを聞く。9月の交渉に必要なものが90分で揃う構成になっています。

セミナー以外に、岩手には常設の相談先が3つあります。

窓口 運営 何を相談できるか
取引かけこみ寺 公益財団法人いわて産業振興センター(盛岡市北飯岡2-4-26) 取引上の悩み全般。専門の相談員がアドバイス。令和8年1月1日に「下請かけこみ寺」から改称
価格転嫁サポート窓口 岩手県よろず支援拠点(全国47都道府県に設置) 価格交渉の基礎知識、原価計算の手法の習得支援
専門家派遣事業 商工指導団体等(岩手県の補助事業・国の重点支援地方交付金を活用) 物価高騰対策や適切な価格転嫁に向けた取組を無料の専門家派遣で支援

「値上げを言い出せない」段階で使えるのが取引かけこみ寺、「言い出したいが根拠が組めない」段階で使えるのが価格転嫁サポート窓口と専門家派遣、という切り分けで考えると選びやすくなります。県の担当は商工労働観光部 経営支援課 商業振興担当(電話 019-629-5548)です。

共同宣言に18機関が名を連ねている

岩手県では、令和5年7月12日に「価格転嫁の円滑化による地域経済の活性化に向けた共同宣言」が出され、令和8年2月12日に更新されています。宣言機関は次の18です。

岩手県商工会議所連合会、岩手県商工会連合会、岩手県中小企業団体中央会、一般社団法人岩手県経営者協会、一般社団法人岩手経済同友会、岩手県中小企業家同友会、公益社団法人岩手県トラック協会、日本労働組合総連合会岩手県連合会、一般社団法人岩手県銀行協会、岩手県信用金庫協会、株式会社日本政策金融公庫盛岡支店、株式会社商工組合中央金庫盛岡支店、岩手県信用保証協会、公益財団法人いわて産業振興センター、経済産業省東北経済産業局、厚生労働省岩手労働局、国土交通省東北運輸局岩手運輸支局、岩手県。

経済団体・労働団体・金融機関・行政が同じ文書に名前を並べている、という事実そのものが交渉の材料になります。取引先が県内の企業なら、その相手も所属団体を通じてこの宣言の周知を受けている可能性が高いからです。

なお、発注者の立場から取引方針を宣言する国の取り組みが「パートナーシップ構築宣言」です。宣言企業はロゴマークを使え、一部の補助金で加点措置などの優遇を受けられます。宣言企業は「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトで公開されているので、取引先が宣言しているかどうかは交渉前に調べられます。

フォローアップ調査は9月下旬から|答えると何が起きるか

月間が終わると調査が始まります。2026年9月分の周知文には「9月下旬以降、受注側中小企業の皆様を対象に実施を予定している」と書かれています。

項目 通常の調査 官公需の調査(今回から)
対象 受注側中小企業 30万社 官公需取引を行っている受注側中小企業 最大15万社
答える相手 主要な発注企業 最大3社 主な発注機関 最大5者
聞かれること 価格交渉、価格転嫁、支払条件の状況 価格交渉、価格転嫁の状況

これとは別に、取引Gメンによる重点的なヒアリングも行われます。

参考までに、前回(2026年3月分)の実績は、調査期間が2026年4月20日〜6月3日、回答企業数69,625社、回収率23.2%でした。対象期間は「2025年10月〜2026年3月末」の6か月間です。今回も直近6か月の実績を聞かれると考えて、9月中の交渉記録を残しておくのが得策です。

「アンケートは義務か」への答え

検索でよく見かける疑問に直答します。周知文に書かれているのは「積極的に回答すること」という依頼で、罰則付きの回答義務は書かれていません。調査は任意です。

そのうえで、答える意味は3つあります。

  1. 匿名性が確保されている。周知文にも「回答が発注者に知られないよう、匿名性の確保を徹底し集計」と明記されています。
  2. 結果が発注者リストになる。10社以上の受注側中小企業から「主要な取引先」として挙げられた発注者について、回答企業数・価格交渉・価格転嫁・支払条件の回答状況が整理され、点数化した平均値で4区分に分類・公表されます。
区分 回答の平均点
7点以上
4点以上、7点未満
0点以上、4点未満
0点未満
  1. 芳しくない発注者には行政が動く。受託中小企業振興法に基づき、事業所管大臣名での指導・助言、勧奨が行われ、さらに調査で得られた情報をもとに迅速な改善を求める注意喚起も実施されます。

自社が1社で申し入れても動かなかったことが、同じ発注者を挙げた10社分の回答としてまとまると、動くことがある。それがこの調査の設計です。

支払条件も同時に聞かれる

見落とされがちですが、通常の調査では支払条件も回答項目です。2026年3月調査の結果はこうなっています。

  • 支払手段を全額「現金のみ」とした回答は87.5%(前回82.2%)
  • 支払期日が60日を超過している企業の割合は全体の6.6%
  • 手形等を利用している企業のうち、割引料等を受注側が負担していると回答した割合は24.3%

取適法で手形払いは禁止されています。自社の入金がまだ手形や長い支払サイトで回っているなら、9月は価格と支払条件をセットで持ち出すタイミングです。手元資金の見通しを先に整理しておきたい場合は、岩手の中小企業がAIで作る年末までの支払いカレンダー|賞与・仕入・納税を整理の作り方がそのまま使えます。

AIで準備する5つの作業|原価の説明・要請文・交渉記録

ここからがAIの出番です。価格交渉の実務は「相手を説得する文章と資料を、短時間で正確に作る」仕事なので、生成AIと相性が良い領域です。

作業 AIに任せる部分 人がやる部分
1. コスト上昇の説明文 公表統計の数字を並べた説明文の下書き どの統計を使うかの選択、自社の実態との整合
2. 価格改定の要請文 件名・構成・言い回しの案出し、複数パターン作成 金額・改定希望日・取引先ごとの調整
3. 交渉記録の整形 メモの箇条書きを日付・出席者・論点の形に整える 発言の事実確認、相手方への共有可否の判断
4. 想定問答の作成 「他社は据え置きだ」等の想定反論と返し方の洗い出し 自社として言えること・言えないことの線引き
5. 調査回答の下ごしらえ 6か月分の交渉記録から回答項目ごとの要約 回答内容の最終確認と送信
価格交渉の準備で生成AIに任せてよい作業と入力してはいけない原価内訳や取引先名を対比した図
価格交渉の準備で生成AIに任せてよい作業と入力してはいけない原価内訳や取引先名を対比した図

そのまま使えるプロンプト例

コスト上昇の説明文をつくる

あなたは中小製造業の営業担当です。以下の条件で、取引先に提出する
「コスト上昇の説明メモ」の下書きをA4一枚分で作ってください。

# 条件
- 業種: [自社の業種]
- 上昇したコスト: [例: 労務費、電力料金、副資材]
- 参照する公表資料: [例: 厚生労働省の最低賃金の改定状況、各種の物価指数]
- 読み手: 取引先の購買担当者

# 書き方のルール
- 自社の原価内訳や利益率は書かない
- 数字は「参照する公表資料」に出ているものだけを使い、出典名を併記する
- 資料に無い数字は「未確認」と明記し、こちらで補わない
- 「お願い」ではなく「事実の共有」の文体で書く

交渉記録を整える

以下は取引先との価格交渉のメモです。
労務費指針の「交渉記録の作成、交渉記録の双方での保管」に沿った形式で、
社内保管用の交渉記録に整えてください。

# 出力する項目
日付 / 場所または方法 / 当社出席者 / 先方出席者 /
当社が提示した内容 / 先方の回答 / 次回までの宿題 / 次回予定

# ルール
- メモに書かれていない発言を補わない
- 推測が必要な箇所は「メモに記載なし」と書く

# メモ
[ここに自分のメモを貼る]

調査回答の下ごしらえをする

以下は2026年4月から9月までの、取引先A社との価格交渉の記録です。
価格交渉促進月間のフォローアップ調査に答えるための整理をしてください。

# 整理してほしい観点
- 価格交渉の申し入れは、当社と先方のどちらから行われたか
- 交渉が行われたか、行われなかった場合の理由
- コスト上昇分のうち、どの程度が価格に反映されたか
- 支払手段と支払期日に変化があったか

# ルール
- 記録にない事実を推測で埋めない
- 判断がつかない項目は「記録から判断できない」と書く

# 記録
[ここに交渉記録を貼る]

3つとも共通しているのは、「資料にない数字を補わない」と最初に指示していることです。生成AIは空欄を埋めたがるので、この一文があるかどうかで使いものになるかが変わります。

県のセミナーでも「支援ツールを使った資料作成体験」が扱われます。先にAIで下書きを作っておき、セミナーで学んだ型に合わせて直すという順番なら、9月中に1社分は仕上がります。

AIに入れてはいけない情報|原価内訳と取引先名は別扱い

価格交渉の資料づくりでAIを使うときに、入れてはいけないものがあります。

入れてよい 入れない
公表されている統計・指数の数値 未公表の原価内訳、工程別の原価
「材料費が上がった」という事実の記述 取引先の企業名、担当者名
自社で作った文章の推敲依頼 契約書、単価表、見積書の原本
公表資料の要約 他社との取引条件、他社見積の金額

理由は3つあります。第一に、原価内訳は自社の競争力そのもので、外部サービスに渡す必要がありません。第二に、取引先名と条件をセットで入れると、秘密保持契約に触れる可能性があります。第三に、労務費指針の(3)が示すとおり、発注者が求めてよい資料はそもそも「公表資料」なので、細かい内訳を作り込む必要自体が薄いからです。

社内でのAIの使い方を先に決めておきたい場合は、岩手の中小企業がAIで経理・総務・社内文書を軽くする方法で扱っている「入れてよい情報・いけない情報」の線引きが土台になります。取引先名を伏せ字にして相談する、法人向けの学習させない設定を使う、といった運用も合わせて決めておいてください。

よくある失敗3パターン

2026年3月調査には、回答企業の生の声が載っています。そこから読み取れる失敗パターンを3つ挙げます。

1. 根拠資料を作り込みすぎて交渉が進まない

調査には「労務費の根拠資料提出を求められ続け、作成負担が大きく交渉が進まない」という声があります。資料が完璧になるまで待つ必要はありません。指針(9)は「値上げ要請のタイミング」を行動指針として挙げています。公表資料ベースでA4一枚を作って、まず出す。それが指針に沿ったやり方です。

2. 業界団体や発注者が示す比率をそのまま受け入れる

「OEMや業界団体が示す比率(価格上昇率・労務費率など)を一方的に採用され、実際の価格上昇分の一部しか転嫁できなかった。個別交渉をお願いしたが応じてもらえなかった」という声も載っています。一律の比率は交渉の出発点であって結論ではありません。個別協議を申し入れて応じてもらえないなら、それは取適法が禁止する「協議に応じない一方的な代金決定」に当たる可能性があります。

3. 交渉記録を残していない

指針(12)は「交渉記録の作成、交渉記録の双方での保管」です。記録がないと、9月下旬の調査に事実を書けません。相談窓口に持ち込むときも、記録の有無で話の進み方が変わります。電話で断られた1本も、日付と相手と内容を1行残す。 これだけでもやっておいてください。

なお、調査には「資料を揃えて労務費の交渉を申し入れたが、最低賃金の上昇分すら転嫁を認めてもらえなかった」という声もあります。うまくいかなかったこと自体も、調査に書く価値のある事実です。

9月中のチェックリスト

日付順に並べます。

  • 9月8日〜12日:主要な取引先を最大3社選び、直近6か月でコストがどれだけ上がったかを公表資料で整理する。AIに説明メモの下書きを作らせる。
  • 9月15日(火)13時30分:岩手県の価格転嫁交渉セミナー(オンライン)に参加する。資料作成の型と、取適法・労務費指針の線引きを確認する。
  • 9月16日〜25日:取引先へ価格改定を申し入れる。指針(10)のとおり、相手の提示を待たず自分から希望額を出す。やりとりはそのつど記録に残す。
  • 9月下旬以降:フォローアップ調査が届いたら、交渉記録をもとに事実を書いて回答する。届かなくても、記録は次回(2027年3月の月間)まで残しておく。
  • 随時:協議に応じてもらえない場合は、取引かけこみ寺(いわて産業振興センター)または価格転嫁サポート窓口(岩手県よろず支援拠点)へ相談する。

10月に向けては、県内の他の締切も並びます。健康経営の認定申請の動きはいわて健康経営認定は9月14日締切|優良法人2027は10月16日にまとめてあるので、総務・経理の担当者が同じ月に何を抱えるかを一度並べて見ておくと段取りしやすくなります。

価格交渉は、一度きりのイベントではありません。指針(11)は「定期的なコミュニケーション」です。9月に一度動かした関係は、2027年3月の月間でもう一度点検できます。今年の9月に記録を残した会社だけが、来年の3月に「前回はこうでしたね」と言えます。

運営元 Uravation より自社に近い業務から着手先を選ぶ材料として、業務別の生成AI活用事例50例を無料で公開しています。 生成AI活用事例 業務別50選を受け取る(無料)

出典・参考

本文中の数値は2026年9月7日に上記の一次資料で確認したものです。制度の運用や日程は変わることがあるため、申込・回答の前に各機関の最新ページを確認してください。

よくある質問

価格交渉促進月間はいつですか?

毎年9月と3月です。2021年9月から設定されています。価格の改定を4月と10月に行う企業が比較的多いため、その前月が月間になっています。2026年9月分の周知文は令和8年8月27日付で出ています。

価格交渉促進月間のアンケートは義務ですか。無視するとどうなりますか?

周知文に書かれているのは「積極的に回答すること」という依頼で、罰則付きの回答義務は書かれていません。回答は任意です。ただし回答は匿名性を確保して集計され、10社以上から主要な取引先として挙げられた発注者は発注者リストとして4区分で公表されます。取組が芳しくない発注者には事業所管大臣名での指導・助言が行われるため、答えないと自社の取引先の実態が集計に反映されません。

岩手県の価格転嫁率はどのくらいですか?

2026年3月調査で50.2%、全国40位です(受注企業の所在地ごとの集計・件数1,375)。前回2025年9月の46.5%からは上がっていますが、全体の54.2%は下回っており、東北6県では最も低い水準です。発注企業の所在地ごとの集計では48.3%・44位でした。

価格転嫁率とはどういう意味ですか?

調査の定義では「実際のコスト上昇分のうち、価格転嫁が実現した割合」の回答の平均値です。コストが100万円上がって50万円を価格に反映できたなら50%、という読み方になります。売上に対する値上げ率ではありません。

労務費の価格転嫁をお願いする文書は、どう書けばよいですか?

労務費指針の(3)と(8)が示すとおり、根拠には公表資料を使います。最低賃金の改定状況などの公表データを挙げ、自社の原価内訳や利益率は書かず、「お願い」ではなく事実の共有として書くのが基本形です。この記事のプロンプト例をそのまま使えば、AIに下書きを作らせて人が金額と日付を入れる形にできます。

取適法とは何ですか。下請法と何が違いますか?

2026年1月1日に下請法が改正されて施行された中小受託取引適正化法の通称です。協議に応じないことによる一方的な代金決定の禁止、手形払いの禁止、対象取引への運送委託の追加、従業員数300人(役務提供委託等は100人)の区分の新設、主務大臣への指導・助言権限の付与が加わりました。

価格転嫁の協議に応じてもらえない場合はどうすればよいですか?

まず記録を残してください。日付・相手・伝えた内容・相手の回答の4点だけでも構いません。そのうえで、岩手であれば取引かけこみ寺(公益財団法人いわて産業振興センター)か、岩手県よろず支援拠点の価格転嫁サポート窓口に相談できます。協議に応じない一方的な代金決定は取適法が禁止する行為に当たる可能性があります。

岩手県のセミナーはどこから申し込めますか?

岩手県「円滑な価格転嫁に向けた環境整備」のページに周知チラシ(PDF)が掲載されており、そこから申込方法を確認できます。開催は令和8年9月15日(火曜)13時30分〜15時00分、オンライン(Zoom)、対象は県内の中小事業者及び支援機関などの担当者等です。

価格交渉の資料づくりを生成AIに任せてもよいですか?

文章の下書き、公表資料の要約、交渉記録の整形、想定問答の洗い出しは任せて構いません。一方で、未公表の原価内訳、取引先の企業名や担当者名、契約書・単価表・見積書の原本、他社との取引条件は入れないでください。最終的な金額と提出の判断は人が行います。