この記事の要点
- 岩手労働局が令和8年9月17日に公表した速報値では、令和8年1月〜8月の県内の死傷者数(休業4日以上)は867人、前年同期比で29人(3.5%)の増加です。死亡者数は6人で3人の増加でした。
- 事故の型で最も多いのは転倒の303人(34.9%)です。前年同期の267人(31.9%)から36人増えており、増加分のほとんどがここに出ています。
- 転倒災害303人のうち226人(74.6%)が50代以上です。全業種合計でも50代以上が518人(59.7%)を占めます。年齢構成を抜きにして転倒対策を語ると打ち手がずれます。
- 業種別では製造業191人が最多で18人の増加、建設業95人と運輸交通業85人は減少しました。同じ県内でも監督署の管轄ごとに増減の向きが逆になっており、盛岡署は55人増、釜石署は17人減です。
- 生成AIは「どの数字を使うか」の判断には向きませんが、確定させた数字を安全衛生委員会の資料にまとめる、ヒヤリハット報告を読める形に整える、作業手順書の下書きを作るといった作業なら任せられます。
岩手の労働災害867人|まず押さえる3つの数字
最初に県全体の数字を確認します。以下はすべて岩手労働局が令和8年9月17日に公表した「令和8年1月〜8月分の労働災害発生状況(速報値)」の値です(岩手労働局「令和8年1月〜8月分の労働災害発生状況(速報値)を公表します」(令和8年9月17日))。

死傷者数と死亡者数
| 項目 | 令和8年1月〜8月 | 令和7年同期 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 死傷者数(休業4日以上) | 867人 | 838人 | 29人(3.5%)増加 |
| 死亡者数 | 6人 | 3人 | 3人増加 |
死亡災害6人の業種内訳は、建設業が2人、製造業・鉱業・運輸交通業・農林業がそれぞれ1人です。岩手労働局は、トラックや建設用機械が墜落・転落したことによる死亡災害が7月・8月と2か月連続で発生しており、作業計画の作成や誘導員の配置といった墜落・転落防止措置が実施されていれば防げたと考えられる、と資料に記しています。
この数字がいつのものか
この統計は月次で更新される速報値です。令和8年9月17日に公表されたものは「令和8年8月末現在」の締めで、1月からの累計を示しています。比較対象の令和7年の値も「令和7年8月末の速報値」であり、後から確定値に置き換わります。
社内資料に引くときは、数字の横に「令和8年1月〜8月(8月末現在の速報値)」「岩手労働局公表」の2点を添えてください。確定値は翌年4月ごろに公表されるため、速報値と確定値が混ざると前年比が合わなくなります。
「休業4日以上」に入らない災害がある
867人は、休業4日以上の死傷者数です。休業1日〜3日で済んだ災害や不休災害はこの数に入りません。新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害も別集計で、令和8年1月〜8月は61人(前年同期34人、27人・79.4%の増加)と、867人とは分けて公表されています。
つまり、867人は「県内で起きた労働災害の全部」ではなく「休業4日以上に至った分」です。自社のヒヤリハット件数や軽微な災害の件数と直接比べられる数字ではない、と押さえておいてください。県内の統計そのものの探し方は岩手県の統計データの探し方にまとめています。
事故の型別|転倒が303人で全体の34.9%
事故の型別に見ると、岩手県の労働災害の重心がはっきり出ます。

型別の順位
| 事故の型 | 令和8年1月〜8月 | 構成比 | 令和7年同期 |
|---|---|---|---|
| 転倒 | 303人 | 34.9% | 267人(31.9%) |
| 墜落・転落 | 130人 | 15.0% | 137人(16.3%) |
| 動作の反動・無理な動作 | 97人 | 11.2% | 97人(11.6%) |
| はさまれ・巻き込まれ | 69人 | 8.0% | 87人(10.4%) |
| 飛来・落下 | 55人 | 6.3% | 28人(3.3%) |
| 激突 | 44人 | 5.1% | 46人(5.5%) |
| 切れ・こすれ | 42人 | 4.8% | 47人(5.6%) |
| 激突され | 38人 | 4.4% | 40人(4.8%) |
| 交通事故(道路) | 32人 | 3.7% | 42人(5.0%) |
転倒だけで3人に1人以上を占めます。設備の安全対策としてイメージされやすい「はさまれ・巻き込まれ」は69人(8.0%)で、転倒のおよそ4分の1です。
増えた型と減った型
全産業の差分を見ると、増えたのは転倒36人と飛来・落下27人です。減ったのははさまれ・巻き込まれ18人、交通事故(道路)10人、墜落・転落7人でした。
全体で29人の増加なので、転倒の36人増が全体を押し上げている形です。「労災が増えた」と一言で言うと対策の的が絞れません。県内で増えているのは転倒だ、という粒度まで落として資料に書いてください。
転倒災害は50代以上が226人
年齢別では、全業種合計867人のうち50代以上が518人で59.7%を占めます。転倒災害に限ると、303人中226人(74.6%)が50代以上です。
転倒対策を「注意喚起」で終わらせると、この年齢構成に届きません。岩手労働局も、9月の「職場の健康診断実施強化月間」と全国労働衛生週間の準備期間を中心に、高年齢労働者が安心して安全に働ける職場環境づくりを働きかけることで転倒災害の防止を進める、と取組方針に書いています。厚生労働省は転倒等リスク評価のセルフチェック票や転倒災害防止のリーフレットを公開しているので、そちらを使うと自社の点検項目を作りやすくなります(厚生労働省「転倒災害の防止」)。
業種別|製造業191人が最多、建設業と運輸は減少
業種別の内訳は、増えている業種と減っている業種がはっきり分かれています。

増えた業種
| 業種 | 令和8年1月〜8月 | 構成比 | 前年同期比 |
|---|---|---|---|
| 製造業 | 191人 | 22.0% | 18人(10.4%)増加 |
| 商業 | 134人 | 15.5% | 9人(7.2%)増加 |
| 保健衛生業 | 109人 | 12.6% | 11人(11.2%)増加 |
| 接客娯楽業 | 56人 | - | 9人(19.1%)増加 |
| 畜産水産業 | 47人 | - | 11人(30.6%)増加 |
商業134人のうち小売業が100人(11.5%)、保健衛生業109人のうち社会福祉施設が79人(9.1%)です。増加率でいちばん大きいのは畜産水産業の30.6%増でした。
減った業種
建設業は95人(11.0%)で16人(14.4%)の減少、運輸交通業は85人(9.8%)で21人(19.8%)の減少です。運輸交通業のうち道路貨物運送業は76人(8.8%)で、前年同期の96人から20人(20.8%)減りました。林業は27人(3.1%)で1人の増加です。
建設業と運輸交通業が減り、製造業・商業・保健衛生業が増えたという構図です。県全体で29人増という数字だけを見て「どの現場も危なくなった」と読むと、実際の動きを取り違えます。
業種ごとに事故の型が違う
同じ867人でも、業種によって中身がまるで違います。令和8年1月〜8月の主要業種の内訳は次のとおりです。
| 業種 | 死傷者数 | 最も多い型 | 次に多い型 |
|---|---|---|---|
| 製造業 | 191人 | 転倒48人 | はさまれ・巻き込まれ33人 |
| 建設業 | 95人 | 墜落・転落22人 | 転倒18人 |
| 道路貨物運送業 | 76人 | 墜落・転落27人 | 転倒16人 |
| 小売業 | 100人 | 転倒62人 | 動作の反動・無理な動作14人 |
| 社会福祉施設 | 79人 | 転倒37人 | 動作の反動・無理な動作22人 |
| 林業 | 27人 | 激突され6人 | 飛来・落下5人 |
小売業は100人中62人が転倒、社会福祉施設は79人中37人が転倒です。一方、建設業と道路貨物運送業は墜落・転落が最多で、荷台やあおりからの墜落・転落が中心になります。林業だけは激突され・飛来・落下が上位で、伐倒作業の災害が数字に出ています。
自社の安全衛生計画に引用するときは、県全体の「転倒34.9%」ではなく、自社の業種の行を使ってください。製造業なら転倒とはさまれ・巻き込まれの2本立て、建設業なら墜落・転落が先です。製造業の日報や検査記録まわりの整え方は岩手の製造業×AIの記事で扱っています。
監督署別|盛岡は55人増、釜石は17人減
岩手県は広く、管内の産業構成も違います。労働基準監督署の管轄別に見ると、増減の向きが逆になっている地域があります。

署別の死傷者数
| 監督署 | 死傷者数 | うち転倒 | 前年同期 | 増減 |
|---|---|---|---|---|
| 盛岡署 | 343人 | 125人 | 288人(91人) | 55人(19.1%)増加 |
| 花巻署 | 232人 | 82人 | 231人(81人) | 1人(0.4%)増加 |
| 一関署 | 90人 | 30人 | 98人(37人) | 8人(8.2%)減少 |
| 二戸署 | 76人 | 31人 | 80人(24人) | 4人(5.0%)減少 |
| 大船渡署 | 51人 | 15人 | 38人(9人) | 13人(34.2%)増加 |
| 宮古署 | 38人 | 8人 | 49人(10人) | 11人(22.4%)減少 |
| 釜石署 | 37人 | 12人 | 54人(15人) | 17人(31.5%)減少 |
死亡災害6人の内訳は、盛岡署管内が3人、花巻署・大船渡署・宮古署管内がそれぞれ1人です。
県平均で自社の地域を語らない
盛岡署は55人(19.1%)の増加、釜石署は17人(31.5%)の減少です。同じ期間の同じ県内で、増減の向きが反対になっています。大船渡署は51人と件数そのものは小さいものの、34.2%増と伸び率は県内で最も大きい値でした。
母数が小さい署では、数人の増減が大きな率になります。二戸署の76人のうち転倒が31人というように、率ではなく実数で見たほうが自社の感覚に合う地域もあります。
資料に「県内で労災が3.5%増えた」とだけ書くと、釜石や宮古の事業所には自分ごとになりません。管轄署の行を併記してください。
県内で使える窓口と、9月から10月の予定
岩手県内では、9月から10月にかけて安全衛生の集中期間が続きます。

9月29日の産業安全衛生大会と全国労働衛生週間
岩手労働局は、9月29日に開催される岩手県産業安全衛生大会を契機に、全産業で安全衛生対策の気運を高めるとしています。あわせて、9月は「職場の健康診断実施強化月間」です。
第77回全国労働衛生週間は令和8年10月1日から7日まで、準備期間は9月1日から30日までです。スローガンは「ひとりひとりが貴重な人材 心も体も健やかに みんな生き生き健康職場」でした。週間そのものの準備の進め方は全国労働衛生週間2026の記事にまとめています。
これらの取組の土台になっているのが第14次労働災害防止計画(令和5年度〜令和9年度)です(厚生労働省「『第14次労働災害防止計画』について労働政策審議会が答申」)。
県内の相談窓口
労働災害の届出や安全衛生の指導は、事業場を管轄する労働基準監督署が窓口です。上の署別の表は、この管轄区分と同じ単位で集計されています。
県の施策や労働関係の相談先は、岩手県が労働関係リンク集としてまとめています(岩手県「労働関係リンク集」)。県は「いわて働き方改革推進運動」への参加事業所も募集しており、労働環境の改善に取り組む県内事業所の登録制度になっています(岩手県「いわて働き方改革推進運動参加事業所の募集について」)。
労働者数50人未満の事業場は、地域産業保健センターで医師による健康相談などの支援を無料で受けられます。産業保健総合支援センターは訪問指導や研修も実施しています(独立行政法人労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター」)。
建設業の事業者向けには、建設業労働災害防止協会岩手県支部が県内で講習会を実施しています(建設業労働災害防止協会岩手県支部「講習会案内・申込」)。
設備改善に使える補助金
高年齢労働者の労働災害防止のための設備導入には、厚生労働省のエイジフレンドリー補助金があります。段差の解消や手すりの設置、重量物を扱う作業の補助機械の導入などが対象になる場合があります(要件審査あり・支給を保証するものではありません)。制度の内容と公募の時期は厚生労働省のページで確認してください(厚生労働省「エイジフレンドリー補助金」)。
転倒災害の74.6%が50代以上という県内の数字は、この種の設備投資を社内で通すときの根拠として使えます。
生成AIに任せられるところ、任せられないところ
安全衛生の実務で生成AIを使う場合、工程を分けて考えると事故が減ります。

人がやる工程
どの統計を使うか、速報値と確定値のどちらを引くか、自社の業種の行はどれかという判断は人がやります。生成AIに「岩手県の労働災害は何人ですか」と尋ねて出てきた数字をそのまま資料に載せるのは避けてください。学習時点の古い値、全国値と県値の取り違え、他県の値との混同が混ざります。
とくに管轄署別の数字は注意が必要です。盛岡署343人と釜石署37人のように10倍近い差があるので、AIが県全体の値を管轄の数字として出しても、読んだだけでは気づけません。
労働安全衛生法上の判断も人が持ちます。休業日数の数え方、労働者死傷病報告の提出要否、健康診断後の医師の意見聴取といった手続きは、法令と監督署の指示が基準です。AIの回答を根拠にしないでください。
AIに任せる工程
数字を確定させたあとの作業は任せられます。具体的には次のようなものです。
1つ目は、安全衛生委員会の資料づくりです。確定させた数値を渡して、議題ごとの説明文と1枚のまとめに整えてもらいます。
2つ目は、ヒヤリハット報告の整理です。現場から集まった手書きやチャットのメモを、事故の型(転倒・墜落転落・はさまれなど)と場所で分類し、重複をまとめる作業は下書きまで任せられます。分類の軸を労働災害統計と同じ型にそろえておくと、県の数字と自社の傾向を並べて見られます。
3つ目は、作業手順書やKY活動の記録の下書きです。既存の手順書を渡して、危険源と対策の欄を埋めた案を出させ、現場の担当者が直す進め方が現実的です。岩手県立大学が進めている現場の危険予知へのAI活用は岩手県立大学発フィジカルAIの記事で扱っています。
4つ目は、外国人スタッフ向けの安全掲示の下書きです。県内の外国人労働者は過去最多で、製造業の比率が高いという特徴があります(岩手県の外国人労働者の記事)。まず日本語をやさしく書き直し、それから訳す順にすると精度が上がります。安全衛生や賃金に関わる掲示は、訳したあとに内容を確認できる人の確認を必ず挟んでください。
プロンプトに入れておく3つの条件
いずれの作業でも、指示文には次の3つを入れておきます。
1つ目は「次の数字だけを使う」です。渡した値の範囲で書かせます。2つ目は「数字を足したり丸めたりしない」です。34.9%を「約35%」に、59.7%を「6割」に書き換えられると、出典と突き合わせたときに合わなくなります。3つ目は「出典の表記をそのまま残す」です。
検索機能は切って、渡した資料の中だけで書かせるほうが事故が減ります。建設現場の書類仕事の進め方は岩手の建設業×AIの記事にまとめています。
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よくある質問
Q. 岩手県の労働災害の発生状況はどこで確認できますか。
岩手労働局が毎月、報道発表資料として速報値を公表しています。最新は令和8年9月17日公表の「令和8年1月〜8月分の労働災害発生状況(速報値)」です。過去分は岩手労働局の報道発表資料のページにまとまっています。
Q. 867人にはどんな災害が含まれますか。
休業4日以上の死傷者数です。休業1日〜3日の災害や不休災害は含みません。新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害(令和8年1月〜8月で61人)も別集計で、867人には含まれていません。
Q. 速報値と確定値はどう違いますか。
速報値は各月末時点で集計した途中の値で、後から確定値に置き換わります。岩手労働局は令和8年4月に令和7年の確定値を公表しています。前年比を出すときは、速報値どうし・確定値どうしで比べてください。
Q. 県内でいちばん多い労働災害は何ですか。
転倒です。令和8年1月〜8月の速報値では303人で、全体の34.9%を占めます。うち226人(74.6%)が50代以上でした。
Q. 自社の地域の数字だけ知りたいときはどうしますか。
岩手労働局の資料には労働基準監督署別の内訳が付いています。盛岡・宮古・釜石・花巻・一関・大船渡・二戸の7署別に、死傷者数と転倒災害者数の内数が載っています。この記事の署別の表もそこから取っています。
Q. 高年齢労働者向けの設備改善に使える制度はありますか。
厚生労働省のエイジフレンドリー補助金があります。高年齢労働者の労働災害防止のための設備導入などが対象となる場合があります(要件審査あり・支給を保証するものではありません)。公募期間と対象経費は年度ごとに変わるため、厚生労働省のページで最新の要領を確認してください。
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