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岩手の一人当たり県民所得283万5千円|年収ではない

岩手の一人当たり県民所得283万5千円|年収ではない

この記事の要点

  • 岩手県の一人当たり県民所得は、令和5年度(2023年度)で283万5千円。前年度比5.9%増で3年連続の増加です(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」)。
  • ただしこれは給与の平均ではありません。県の資料自体が「個人の所得水準を表す指標ではありません」と注記しています。中身には企業のもうけや財産所得も入っています。
  • 一人当たり国民所得は352万1千円で、岩手の水準は国を100としたとき80.5。前年度の81.7から1.2ポイント下がりました。
  • 市町村別に見ると、最も高い金ケ崎町の337万4千円から、最も低い葛巻町の205万円まで開きがあります。
  • 社内で使うなら「景気の方向を見る数字」。賃金交渉や求人票の根拠には別の統計を使ってください。

令和5年度の一人当たり県民所得は283万5千円

岩手県ふるさと振興部が公表している令和5年度(2023年度)の県民経済計算によると、岩手県の一人当たり県民所得は283万5千円(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」)でした。前年度の267万8千円から5.9%増え、3年連続の増加です。

県内総生産、県民所得、一人当たり県民所得の3段を上から順に細くして並べ、人口で割る位置を示した図
県内総生産から県民所得を経て、人口で割って一人当たり県民所得が出るまでの流れ。

県全体の規模を示す3つの数字

同じ資料(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」)には、県全体の経済規模を示す数字も並んでいます。

区分 令和4年度 令和5年度 対前年度増加率
県内総生産(名目) 4兆7,518億円 4兆8,973億円 3.1%
県内総生産(実質) 4兆6,382億円 4兆6,788億円 0.9%
県民所得 3兆1,612億円 3兆2,981億円 4.3%

県民所得3兆2,981億円を、令和5年10月1日現在の県人口1,163,212人で割った結果が283万5千円です。人口が前年度の1,180,595人から減っているため、県民所得の伸び(4.3%)よりも一人当たりの伸び(5.9%)のほうが大きくなっています。

「増えた」の中身は2つある

一人当たりの数字が増える理由は2通りあります。分子である県民所得が増えたか、分母である人口が減ったかです。令和5年度の岩手は両方が同時に起きました。伸び率だけを見て「県民が豊かになった」と説明すると、人口減少の効果を所得の改善として読み替えてしまうことになります。社内資料に載せるときは、県民所得の総額と人口の両方を並べて置いてください。

「県民所得」は給料の平均ではない

この数字でいちばん多い誤読が「岩手県民の平均年収は283万円」という読み方です。県の資料には、一人当たり県民所得は「県経済全体の所得水準を表す有効な指標ではあるが、個人の所得水準を表す指標ではないことに留意する必要がある」とはっきり書かれています。

左に県民雇用者報酬・財産所得・企業所得の3つの箱を縦に並べ、右の県民所得の箱へ矢印でまとめた図
県民所得を構成する3項目と、それぞれの金額・構成比。賃金にあたるのは7割で、残りは企業や財産の所得。

中身は3つの合計

県民所得は、次の3つを合計したものです。令和5年度の内訳は県の概要資料(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」)で以下のとおりです。

項目 金額 構成比 対前年度増加率
県民雇用者報酬 2兆3,095億円 70.0% 0.7%
財産所得 1,926億円 5.8% 4.5%
企業所得 7,959億円 24.1% 16.4%

県民雇用者報酬は働く人に払われた賃金・俸給などですが、それは全体の7割です。残りの3割は、会社のもうけである企業所得と、利子・配当などの財産所得が占めています。しかも分母は「働いている人の数」ではなく、子どもや退職した人も含む総人口です。分子に企業のもうけが入り、分母に働いていない人が入っている以上、この数字は給与明細とは別のものになります。

給与を知りたいときに見る統計

県内の給与水準そのものを知りたい場合は、賃金構造基本統計調査や毎月勤労統計調査など、賃金を直接調べている統計を見てください。当サイトでは岩手県の平均月給を賃金構造基本統計調査から読む記事と、盛岡市の家計調査から消費支出の内訳を見る記事で、それぞれの数字の性格を整理しています。目的が「暮らし向き」なら家計調査、「賃金」なら賃金統計、「県経済の規模」なら県民経済計算、と使い分けるのが安全です。

所得水準80.5が下がった理由

岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」によると、一人当たり国民所得は令和5年度に352万1千円(前年度比7.4%増)でした。これを100としたときの岩手の水準は80.5で、前年度の81.7から1.2ポイント低下しています。

左に令和4年度、右に令和5年度の所得水準を置き、県と国の伸び率を並べた比較図
岩手の一人当たり県民所得も伸びているが、国の伸びのほうが大きく、水準は81.7から80.5へ下がった。

岩手も増えているのに差が開いた

注意したいのは、同じ資料(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」)のとおり、岩手の一人当たり県民所得も5.9%増えているという点です。それでも水準が下がったのは、国の伸び(7.4%)のほうが大きかったからです。「水準が下がった=岩手が貧しくなった」ではなく「全国の伸びに追いつかなかった」が正しい読み方になります。

差がつく場所は企業所得

伸びの差がどこから来るかを見るなら、県民所得の3項目のうち企業所得の動きが手がかりになります。岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」では、岩手の企業所得は平成30年度から令和4年度まで減り続けたあと、令和5年度に16.4%増と6年ぶりの増加に転じました。構成比も平成25年度の35.5%から令和5年度は24.1%まで下がっています。一方で県民雇用者報酬の構成比は70.0%と高い水準にあります。県内経済が賃金に依存し、企業のもうけの層が薄い構造が、水準84.7(平成23年度)から80.5への低下として表れていると読めます。

なお、同じ資料では県内総生産の全国シェアは0.82%で、前年度から0.02ポイント下がりました(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」)。

市町村別では205万円から337万円まで開く

県平均の283万5千円だけを見ていると、県内の差が見えなくなります。県は市町村民経済計算も同時に公表しており、令和5年度の一人当たり市町村民所得(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県市町村民経済計算の概要」)では、市町村計の平均が282万4千円、最も高い金ケ崎町が337万4千円、最も低い葛巻町が205万円でした。

金ケ崎町から葛巻町まで一人当たり市町村民所得の高い順に段が下がっていく階段図
一人当たり市町村民所得の上位と下位。市町村計の平均をはさんで、上下におよそ130万円の開きがある。

上位に並ぶのは工場と県都

上位4市町は岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県市町村民経済計算の概要」で次のとおりです。

市町村 一人当たり市町村民所得 対前年度増加率
金ケ崎町 337万4千円 10.5%
盛岡市 327万3千円 5.2%
矢巾町 320万円 8.0%
北上市 302万8千円 7.2%

同じ資料によると、金ケ崎町は市町村内総生産156,972百万円のうち第2次産業が113,095百万円を占めており、人口規模に対して製造業の生産が大きいことが数字に出ています。北上市も市町村内総生産521,512百万円のうち第2次産業が227,171百万円で、総生産は前年度比13.5%増でした(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県市町村民経済計算の概要」)。北上市で進む半導体関連の投資のように、工場の立地が一人当たりの数字を押し上げる構図です。

下位と、唯一減った村

低いほうは葛巻町の205万円(水準72.6)、九戸村の237万円(水準83.9)、軽米町の241万3千円(水準85.4)と続きます。また、令和5年度に一人当たり市町村民所得が減ったのは田野畑村だけで、224万1千円(前年度比1.4%減)でした(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県市町村民経済計算の概要」)。

広域振興圏でまとめると、同じ資料で県央が304万5千円(水準107.8)、県南が274万9千円(97.4)、県北が259万9千円(92.0)、沿岸が255万6千円(90.5)です。沿岸は平成26年度に水準103.9まで上がったあと下がり続けており、復興事業の建設需要が縮んだ影響が一人当たりの数字に残っています。

県内総生産4兆8,973億円を押し上げた産業

生産の側から見ると、岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」では令和5年度の県内総生産(名目)は4兆8,973億円で前年度比3.1%増、実質は4兆6,788億円で0.9%増でした。名目と実質の差は、デフレーターが104.7まで上がったこと、つまり物価上昇分が名目の伸びに乗っていることを示します。

県内総生産を3つの産業区分に分けた積み上げ棒と、各区分の金額・構成比を並べた図
県内総生産を第1次・第2次・第3次産業に分けた構成。第3次産業が7割を占める。

第3次産業が7割を占める

産業別の内訳は同じ資料(岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」)で以下のとおりです。

区分 金額 構成比 対前年度増加率
第1次産業 1,459億円 3.0% 9.1%
第2次産業 1兆2,501億円 25.5% 1.3%
第3次産業 3兆4,626億円 70.7% 3.7%

第1次産業は農業の増加により3年ぶりの増加、第2次産業は製造業の増加で2年連続の増加、第3次産業は電気・ガス・水道・廃棄物処理業と宿泊・飲食サービス業の増加で3年連続の増加でした。一方、建設業と運輸・郵便業は名目・実質とも減少に寄与しています。

支出の側では公的需要が減っている

支出側で見ると、岩手県「令和5年度(2023年度)岩手県県民経済計算の概要」では民間最終消費支出は2兆9,264億円で1.8%増と3年連続の増加、地方政府等最終消費支出は9,806億円で2.0%減と5年ぶりの減少、総資本形成は1兆3,207億円で7.5%減と2年ぶりの減少でした。民間需要は3年連続の増加、公的需要は3年連続の減少です。県内で公共工事や自治体発注に依存度が高い事業者ほど、この並びは自社の受注環境と重なって見えるはずです。

県内の会社がこの数字を使える場面と使えない場面

県民経済計算は年に1回、しかも2年ほど遅れて出る統計です。速報性はありませんが、数年単位の方向を確かめるには向いています。

使える場面

中期の事業計画で「県内市場が伸びているのか縮んでいるのか」を置くとき、県内総生産の推移は根拠になります。設備投資の判断で県内の総資本形成の動きを見る、出店や新規事業の検討で市町村別の一人当たり市町村民所得と人口を並べる、といった使い方も自然です。金融機関や自治体に出す計画書で「県経済の現状」を1段落で書く場合も、県の一次資料を引いておけば説明が通ります。

使えない場面

賃金交渉の根拠、求人票の給与水準の決定、「うちの給与は県平均より上」といった説明には使えません。これらは給与を直接調べた統計で確認してください。賃金の下限を確かめるなら最低賃金のほうが直接の根拠になり、岩手の最低賃金は1,031円から1,090円へ改定される見通しで、発効日は2026年12月1日(厚生労働省資料・官報告示前)とされています。改定と助成金の関係は岩手の最低賃金引き上げと助成金の記事で整理しています。採用や雇用の環境を見たいなら県の完全失業率と就業者数のほうが目的に合います。また、令和4年度以前の数値は推計方法の変更で遡及改定されているため、古い公表値と混ぜて並べないでください。過去の年度を使うときは最新版の資料に載っている数値に置き換えます。

どこで確認するか

県民経済計算・市町村民経済計算のどちらも、岩手県調査統計課の「いわての統計情報〜イーハトーブ・データ館」に統計表と概要が置かれています。内容の問い合わせ先は、県民経済計算が岩手県ふるさと振興部調査統計課 調査分析担当(電話 019-629-5301)、市町村民経済計算が同担当(電話 019-629-5307)です。数字の定義で迷ったら、推測で書く前に問い合わせたほうが早く済みます。

生成AIに県民経済計算を読ませるときの手順

県民経済計算の概要は十数ページのPDFで、表も多く、そのまま読むと時間がかかります。生成AIに下読みをさせる場合は、手順と線引きを決めてから使ってください。

左に任せてよいこと3つ、右に任せてはいけないこと3つを並べ、中央で分けた対比図
県民経済計算をAIに読ませるときに任せてよい作業と、人が必ず自分で行う作業。

手順

まず、県のサイトから概要のPDFを自分でダウンロードします。次に、そのファイルを生成AIに読み込ませ、「この資料に書かれている数字だけを使って、一人当たり県民所得と県民所得の3項目を表にして」のように、資料の外に出ないよう指示します。そのうえで、出てきた数字をPDFの該当ページと1つずつ突き合わせます。最後に、社内資料に載せる文章だけをAIに整えてもらいます。

線引き

任せてよいこと 任せてはいけないこと
PDFの要約と用語の言い換え 数字の最終確認
社内向け説明文の下書き 資料に無い年度の推計
用語の意味を調べる 他県との比較の作文

生成AIは、資料に無い年度や市町村の数字をもっともらしく書いてしまうことがあります。とくに県民経済計算は遡及改定があるため、AIが学習時点の古い公表値を出してくる余地があります。数字は自分でPDFに戻って確認してください。社内でAIを使う範囲を決めておく考え方は、県内中小企業の生成AI活用状況をまとめた記事でも触れています。

よくある質問

Q. 一人当たり県民所得283万5千円は、岩手県民の平均年収ですか。
いいえ。県の資料に「個人の所得水準を表す指標ではありません」と明記されています。分子の県民所得には企業所得や財産所得が含まれ、分母は働いている人ではなく総人口です。

Q. いつの数字ですか。
令和5年度(2023年度)です。県民経済計算は年度単位で、公表までに時間がかかります。直近の景気を見たい場合は、月次で出る統計を使ってください。

Q. 市町村別の数字はどこで見られますか。
岩手県の市町村民経済計算で、33市町村すべての一人当たり市町村民所得が公表されています。県の統計サイトから概要版と統計表(参考指標)をダウンロードできます。

Q. 去年見た数値と違うのですが。
令和4年度以前の数値は、推計方法の変更や新しい統計結果により遡及改定されています。過去年度を使うときは、最新版の資料に載っている数値を使ってください。

Q. 所得水準80.5は低いということですか。
全国平均(100)に対する位置を示す数字で、令和5年度は80.5でした。岩手の一人当たり県民所得自体は5.9%増えており、国の伸び7.4%に届かなかったために水準が下がっています。

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参考・出典