結論:事業承継でAIが手伝えるのは「頭の中にある仕事を文章化する」工程
岩手の中小事業者・農林水産業・自治体関連団体で、いま静かに深刻化しているのが後継者不在と高齢化です。社長や職人の頭の中にしかない段取り、長年の取引先との付き合い方、「これはこうやるもんだ」という勘どころ。それを誰にも引き継げないまま廃業する――これは岩手の地域経済にとって大きな損失です。
結論を先に言うと、事業承継のすべてをAIに任せることはできません。法務・税務・株式の評価・M&Aのマッチングといった最終判断は、必ず事業承継・引継ぎ支援センターや税理士・弁護士などの専門家に相談する領域です。しかしその手前にある「頭の中にある仕事を文章にして残す」「引き継ぎ資料の下書きをつくる」「事業の魅力を言葉にする」という工程は、ChatGPTなどのAIが大いに手伝えます。本記事は、岩手の現場でそのまま使えるプロンプト例つきで、AIを承継準備の補助ツールとして使う方法を整理します。
この記事の要点
- 事業承継の本丸(法務・税務・M&A・補助金の最終判断)は専門家に相談する。AIは「文章化・整理・たたき台づくり」に限定して使う。
- 承継準備でAIが活きる5領域:①ナレッジ継承 ②引き継ぎ資料づくり ③後継者・第三者承継の準備 ④承継後の業務改善 ⑤相談先・支援制度の整理。
- 機密の事業情報・財務情報・取引先や従業員の個人情報はAIに入れない。匿名化・抽象化して使うのが鉄則。
- 岩手には「岩手県事業承継・引継ぎ支援センター」(盛岡市)など公的な相談窓口がある。AIで整理した内容を持ち込めば相談がスムーズになる。
- 2026年6月時点の情報。制度の条件や期限は必ず公式サイト・窓口で最新を確認すること。
対象読者
- 後継者がまだ決まっていない、または準備を始めたい岩手の中小事業者・個人事業主
- 親や先代から事業を引き継ぐ立場の後継者(息子・娘・親族・従業員)
- 地域の事業者の承継を支える商工会・商工会議所・自治体の担当者や金融機関の担当者
- 職人技や独自のノウハウを「形に残したい」と考えている製造・建設・水産・農林の現場
読了後にできること
- 頭の中にある業務手順を、AIに質問させながら30分で文章のたたき台にできる
- 引き継ぎノート・業務マニュアルの目次と下書きをAIで素早く用意できる
- 「うちの事業の何が魅力か」を言語化し、後継者探しや相談の場で説明できる
- AIに入れてはいけない情報の線引きが分かり、安全に使い始められる
- 岩手の公的な相談窓口へ、整理済みの資料を持って相談に行ける

1. ナレッジ継承:職人技・段取り・取引先情報を文章にして残す
岩手の現場でいちばん引き継ぎが難しいのが「言葉になっていない仕事」です。南部鉄器の鋳込みの勘、気仙大工の納まり、漁師の漁場の見立て、農家の天候判断、製造現場の段取り――どれも先代の頭と手に染み付いていて、マニュアルには残っていません。
AIはこれを「インタビュアー」として引き出すのが得意です。先代に直接100ページの手順書を書かせるのは無理でも、AIに質問を作らせて、その問いに口頭で答えてもらい、答えをAIに整理させれば、文章のたたき台が一気にできます。
進め方
- 残したい仕事のテーマを1つ決める(例:「シーズン前の機械メンテナンス手順」)。
- AIに「この作業を引き継ぐために、先代に聞くべき質問を15個作って」と依頼する。
- その質問を先代・熟練者に口頭でインタビューし、回答をメモまたは録音の文字起こしで集める。
- 集めた回答をAIに渡し、「手順書の形に整理して。専門用語は注釈をつけて」と依頼する。
- 出てきた下書きを現場の人が読んで、抜けや間違いを直す。AIの出力は必ず人が確認する。
プロンプト例
質問づくりのプロンプト:
あなたは事業承継を支援するインタビュアーです。私の会社では「○○(作業名)」を熟練の先代だけが担当しており、後継者に引き継ぎたいと考えています。先代の頭の中にある知識を引き出すために、後継者が知るべきことを網羅する質問を15個、初級→応用の順で作ってください。専門用語は使わず、現場でそのまま聞ける言い回しにしてください。
整理のプロンプト:
以下は先代へのインタビューの回答メモです。これを「①準備するもの ②手順 ③つまずきやすい点と対処 ④判断の基準」の4つに分けて、後継者が読んで作業できる手順書の下書きにしてください。専門用語には簡単な説明を添えてください。【ここに回答メモを貼る/※取引先名・個人名は伏せ字にしてから貼る】
2. 引き継ぎ資料づくり:業務マニュアル・引き継ぎノートの下書き
承継を意識し始めたら、まず「今、誰が・何を・どうやっているか」を棚卸しすることが出発点になります。岩手の小規模事業者では一人何役も担っているのが普通で、その人がいなくなったとき何が止まるのかが見えていないケースが多いものです。
AIは、ばらばらのメモや口頭の説明を「読める引き継ぎノート」の形に整える作業を速くします。ゼロから書く負担が大きいなら、まずAIに目次案を出させ、項目ごとに埋めていくと進めやすくなります。
進め方
- 引き継ぎたい業務の範囲を箇条書きで挙げる(経理、仕入れ、製造、接客、SNS発信など)。
- AIに「中小事業者の引き継ぎノートの目次を作って」と依頼し、自社向けに項目を足し引きする。
- 各項目について、いま分かっていることを箇条書きでAIに渡し、文章化させる。
- 取引先や金額などの具体情報は伏せたまま「枠組み」だけ作り、後で人が実数を書き込む。
- 完成した下書きを印刷し、現場で1週間使ってみて、足りない手順を追記する。
プロンプト例
私は岩手県内で○○業(例:建設業・飲食店・水産加工)を営む小規模事業者です。事業を後継者に引き継ぐための「引き継ぎノート」を作りたいです。日々の業務、年に数回の業務、取引・支払いの流れ、緊急時の連絡先(※実名は後で記入)まで含めた目次案を作ってください。専門知識がなくても埋められるよう、各項目に「ここに何を書くか」のヒントを1行ずつ添えてください。
個別の業務マニュアル化のプロンプト:
次の箇条書きは「請求と入金確認の流れ」を私がメモしたものです。これを、初めて担当する人でも作業できる手順書に整えてください。順番が前後している箇所は直し、抜けていそうな確認ステップがあれば「要確認」と注記してください。【箇条書きを貼る/金額・取引先名は伏せる】
3. 後継者・第三者承継の準備:事業の魅力を言葉にする
親族に継ぐ人がいない場合、従業員承継や第三者への引き継ぎ(M&A・後継者バンクの活用)が選択肢になります。その際にまず必要なのが「この事業の何に価値があるのか」を言葉にすることです。地元では当たり前すぎて気づきにくい強み――固定客、立地、技術、許認可、地域でのブランド――を整理しておくと、相談や引き合いの場で説明しやすくなります。
AIは、自分では言語化しづらい強みを「質問で掘り起こす」のに使えます。ただし具体的な売上・利益・財務数値や取引先の実名はAIに入れず、抽象的な特徴の言語化にとどめてください。実際の事業評価・価格・契約は、事業承継・引継ぎ支援センターや専門家が扱う領域です。
進め方
- 事業の特徴を思いつくまま箇条書きにする(数値は使わず、性質だけ)。
- AIに「この事業の魅力を第三者に伝える文章の下書きを作って」と依頼する。
- 出てきた下書きを読み、誇張や事実と違う表現を削る。AIが盛った表現は必ず人が落とす。
- 整えた「事業の魅力メモ」を、支援センターや金融機関への相談時の手土産にする。
- 財務・評価・条件交渉は専門家に任せ、AIで作ったのは「言葉の素材」だと割り切る。
プロンプト例
私は岩手県で○年続く○○業を営んでいます。後継者を探すために、事業の魅力を第三者にも伝わる文章にしたいです。以下の特徴をもとに、誇張せず事実ベースで「事業の概要と強み」の下書きを作ってください。数字や取引先名は入れていないので、推測で数値を補わないでください。【特徴の箇条書きを貼る】
4. 承継後の業務改善:新しい人が早く立ち上がる仕組み
引き継いだ後、後継者が最初にぶつかるのが「先代に毎回聞かないと進まない」状態です。ここでもAIは、よくある質問への回答集(社内FAQ)や、定型作業のチェックリストづくりを助けてくれます。先代が元気なうちに、よく聞かれる質問とその答えを集めてFAQ化しておくと、承継後の負担がぐっと減ります。
進め方
- 後継者が「これ、どうするんだっけ?」と迷いそうな場面を10個書き出す。
- 各場面について先代の答えを集め、AIに「社内FAQの形に整理して」と依頼する。
- 毎月・毎週の定型作業は、AIにチェックリスト化させて壁に貼る。
- 運用しながら、新しく出た質問をFAQに追記していく。
プロンプト例
以下は、後継者から先代によく出る質問と、その答えのメモです。これを社内FAQの形(質問→簡潔な答え→補足)に整理してください。答えが曖昧な箇所には「先代に再確認」と注記してください。【メモを貼る/個人名・取引先名は伏せる】
5. 相談先・支援制度の整理:岩手の公的窓口を使い倒す
事業承継は「自分たちだけで抱え込まない」ことが一番大切です。岩手には岩手県事業承継・引継ぎ支援センター(盛岡市清水町)があり、後継者不在の相談、第三者承継のマッチング、後継者バンクの登録などを無料で相談できます。商工会・商工会議所、金融機関、税理士も入り口になります。
AIは、これらの窓口に相談する前の「論点整理」に使えます。自分の状況を箇条書きで渡し、「相談時に聞くべきことを整理して」と頼めば、限られた相談時間を有効に使えます。ただし制度の条件・補助金の対象・期限などはAIの回答を鵜呑みにせず、必ず公式サイトと窓口で最新を確認してください。AIは過去の情報で答えることがあり、制度は毎年変わります。
プロンプト例
私は岩手県の小規模事業者で、後継者がまだ決まっていません。事業承継の相談窓口に行く前に、何を整理し、何を質問すべきかをリストにしてください。私の状況は次の通りです。【業種・おおよその規模感・家族構成・困っていることを、実名や数値を伏せて貼る】専門的な判断はせず、相談で確認すべき論点の洗い出しだけお願いします。
AIに入れてはいけない情報(事業承継で特に注意)
事業承継の準備では、財務情報・取引条件・従業員や顧客の個人情報など、機密性の高いものを扱います。これらを安易に外部のAIサービスに入力するのは避けてください。
- 入れない:決算書の数値、口座情報、取引先の実名と契約条件、従業員の個人情報、株式の保有状況、未公表のM&A交渉内容。
- 抽象化して入れる:「県内に固定客が多い」「水産加工業」「家族経営で従業員数名」のように、個人や金額が特定されない形にする。
- 下書き後は必ず人が確認:AIは事実と違うことを自信たっぷりに書くことがある。数値・固有名詞・制度の条件は人がチェックして直す。
- 法務・税務・評価の判断はしない:「これは税金がかからない」などの断定はAIにさせない。必ず専門家に確認する。
よくあるつまずきと対処
- 「先代が文章を書きたがらない」→ 書かせるのではなく、AIが作った質問に口頭で答えてもらい、文字起こしをAIに整理させる。
- 「AIの答えが一般論すぎて使えない」→ 業種・地域・規模を具体的に伝え、「岩手の小規模○○業向けに」と条件を足す。
- 「機密情報をうっかり入れそうで怖い」→ 貼る前に実名・金額をすべて伏せ字にするルールを最初に決め、貼る用のメモを別に作る。
- 「結局どこに相談すればいいか分からない」→ まず岩手県事業承継・引継ぎ支援センターか地元の商工会・商工会議所に連絡する。AIで整理したメモを持参するとスムーズ。
まとめ:AIは承継の「文章化の相棒」、最終判断は専門家へ
岩手の事業承継は、後継者不在と高齢化という待ったなしの課題です。AIはその全部を解決する魔法ではありませんが、いちばん腰が重い「頭の中の仕事を文章にして残す」工程を、確実に軽くしてくれます。ナレッジ継承・引き継ぎ資料・事業の魅力の言語化・承継後の立ち上げ・相談前の整理――この5つから、できるところを1つ始めてみてください。そして法務・税務・評価・補助金の最終判断は、岩手県事業承継・引継ぎ支援センターや税理士・弁護士などの専門家に必ず相談すること。AIで整理した資料を手土産に窓口を訪ねれば、相談はずっと前に進みます。
(本記事は2026年6月時点の情報です。制度の条件・期限は変わるため、必ず公式サイトと窓口で最新をご確認ください。)